第96話 クレハのお仕事、ルークのお仕事

クレハ達はアルケーにて数日間過ごし、住民たちの本音を聞き出していた。予定であればすでに領主の館にクレハに関しての連絡が行っているはずだ。


ここ数日で必要なことは聞けたため、クレハはようやくこれからの自分の住処である領主の館へと訪れる。


「止まれ!ここは領主様の屋敷だ、何の用か?」


屋敷の門番らしき衛兵がクレハ達の行く手を阻む。突然現れたクレハ達を不審に思うのは当然である。


「この度、アルケーの街の領主に就任したクレハ・ビオミカです。すでに話は通っていますか。」


「領主様ですか、ただいま担当の文官を呼んできますのでお待ちいただけないでしょうか?申し訳ありませんが確認が取れるまでは、何人たりとも屋敷に入れることができません。これが私の仕事ですので、どうかご了承くださいませ。」


門番は先ほどと違いクレハに対してかなりの低姿勢で了承を求める。門番は領主の館を守る重要な仕事であるため、尋ねてきたものが誰か分からない場合、相手になめられないように高圧的な態度で威圧することが多い。しかしながら、クレハが領主であることを名乗り出ると、途端に低姿勢になる。


これは門番としてむしろ当然の対応なため、クレハは特にこのことに関して、問題はないと考えている。むしろここでしっかりと仕事を行っていない場合、屋敷の安全が守られていないことにつながるため、自らの仕事を忠実にこなしている門番に対して好印象を抱いていた。


最悪なのは訪ねてきたものが自らの正体を明かしたのにもかかわらず、それを疑ってそのまま追い返してしまうことだ。


今回であれば女性であるクレハのことを下手に見て、追い返すようなことがあれば領主を追い返したとして、追い出されるのは門番の方だっただろう。幸い、門番は常識を持ち合わせていたため、その点に関しては問題が無かった。


「お待たせいたしました。私、クレハ様の領地の統治を行うお手伝いをいたします、ドルクスと申します。国王陛下からクレハ様のことを全面的に支援するようにと仰せつかっていますので、全身全霊でご協力させています。何かありましたら私にご命令を頂ければその様にさせて頂きます。」


「ドルクスさんですね、この街の領主となりましたクレハです。よろしくお願いしますね、そしてこっちが。」


「ルークと言います。ドルクスさん、よろしくお願いいたします。」


クレハとルークの二人は頭を下げ、挨拶を行う。そんなクレハの低姿勢にドルクスは恐縮している。貴族であるクレハからここまで丁重に扱われるとは思っていなかったからだ。


「クレハ様、私に頭を下げる必要などありません。そのような姿勢では下の者がつけあがってしまいます。どうか、あなた様は毅然とした態度で接するようにお願いいたします。」


「そういえば貴族になったのですね、最近まで商人でしたので癖が抜けきっていないのかもしれません。まぁ、私は高圧的な貴族が好きではないので今のままでいいではないですか。本当に優れた人間なら自然と人はついてくるものですから、私もそんな貴族になれるように頑張りませんと!」


クレハは自らについてきてくれる人たちの期待を裏切らないような貴族になると、改めて決意しているようであった。


「オーナー、ならきっとなれますよ!商会の従業員の皆さんだってオーナーのことを慕っていますし!」


「ありがとうございます、ルーク。」


「私の言っていることはそういうことではないのですが・・・。ですが、私の役目はクレハ様を全力でお手伝いすることですので、クレハ様がそういわれるのであれば私からは何も言いません。さて、クレハ様、立ち話もなんですので続きは中でお話しいたしましょう。ご案内いたしますので、どうぞこちらへ、いらしてください。」


二人はドルクスの案内の元、屋敷へと入っていくのだった。 クレハ達は屋敷の応接室に案内されるとドルクスから話を受ける。


「まず領地の統治に関してですが、陛下からクレハ様はあまりそのことに関しての知識をお持ちでないと伺っておりますが、いかがでしょうか?」


「ええ、恥ずかしながら統治などに関する知識は持ち合わせていません。」


ここで見栄を張ってない知識をあると言ってしまえば後々大問題になってしまうため、クレハは正直にそのことを告げる。


「なるほどかしこまりました。では、クレハ様の領地に関しましては何人かの文官で業務を行い、私がそれを統括します。


そして、それらの最終確認および決定をクレハ様にはお任せしたいのですがいかかでしょうか?こればかりは領主であるクレハ様が行わなければなりませんので、どうぞよろしくお願いいたします。」


「分かりました、基本的なことは専門であるあなた方にお任せいたします。ですが、一点お願いしたいことがあります。


私には統治を行う知識は持ち合わせていませんが、領民の生活水準や経済状況を向上させる知識などは豊富にあります。その知識を使って改革を行いたいので、その相談に乗っていただけますか?」


「その点に関しましては陛下からうかがっております。なんでも、その分野に関しましてはたぐいまれな才能をお持ちだとか、クレハ様の経営している商会もその知識によって急速に発展したとお聞きしました。


こちらとしては願ってもないことですので、どうぞご協力をお願いいたします。領内の財政が潤えばできることはさらに増えていきます。そうして、この街を国一番の都市に発展させましょう!」


いつの間にか、ドルクスの文官としてのやる気に火をつけていたようだ。これからの街の発展していく状況を想像しているのか、彼は燃え上がっている。ここで、先ほどから黙っていたルークだが決心した表情でドルクスに話しかける。


「ドルクスさん!お願い事があります!」


先ほどまで黙っていたルークが急に話し始めたため、クレハもドルクスもルークに目を向ける。


「何でございましょうか?」


「僕にあなたの仕事を学ばせていただけませんか?」


突然の頼みにクレハは何を言っているのか分からないような表情をしていたが、ドルクスは興味深いようにルークを見つめる。


「なぜ、私の仕事を学びたいのでしょうか?あなたは文官でもないですよね?今までは商会のお手伝いをしていたのではないですか?それならば、こちらの街で商会を開いて店を切り盛りすればいいのでは?」


「それではダメなんです、何のためにオーナーについてきたか分かりません。確かにお店のお手伝いならできますが、それでは今までと変わりません。僕にしかできないことで、オーナーを手助けしたいんです。


僕にはオーナーようにすごいアイデアも思いつくこともできません、ですがオーナーの考えていることを実行に移すお手伝いならできます!オーナーの考えている領地の未来を余すことなく実現したいんです。そのために、僕に文官としてのお仕事を教えてください、お願いします。」


ルークはドルクスに深々と頭を下げる。先ほどから隣で話を聞いていたクレハはルークがここまで考えていたことにとても驚いていた。そんなルークを応援したいと考え、ルークと共にクレハも頭を下げる。


「ドルクスさん、私からもお願いします。ルークが文官として働いてくれるようになれば私も心強いです。」


二人に頭を下げられたドルクスはその熱意に負け、ルークのお願いを承諾するのだった。


「分かりました、お二人がそこまで申されるのであればルークさんを私の補佐にいたしましょう。ですが、私の補佐になる以上は半端な事では許されません。これからは厳しくさせていただきますがよろしいですか?」


「はい!おねがいします!」


その日から、ルークはドルクスの補佐として文官の仕事を学ぶことになった。

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