第10話 久しぶりのミトとクレハの思惑
数日前、クレハの元にシルドラ家からの使者がやってきた。
使者の話では直ちにシルドラ家に来いとのことだった。
使者に理由を聞いても、ただついてこいとしか言わず理由は教えてくれなかった。
(この段階で接触してくるということは十中八九クレハ商会の商品でしょう。
おそらく私が売っているシャンプーやリンスが美しくなる魔法の薬とでも風のうわさで聞いてマーラやサンドラが欲しがったのでしょう。
ちょうどいいですわね、ここは一つお返しをしてあげましょうか。
とりあえず、マーラやサンドラに商品を渡せばあの二人のことですから帝都で開かれる舞踏会などでさんざん自慢することでしょう。
そうなれば、周囲の貴族令嬢たちや皇族の方たちも羨ましくなるはずですわ。
そうなれば、どうやってでも、うちの商会の商品を手に入れたいと思うはずですわ。
おそらく、それぞれの家のお抱え商人に頼んで商品を買いに来ることでしょう。
そんな時にシルドラ家に無理やり商品を奪われたから帝国の貴族や商人とは一切取引をしないと決めたと言えば、いったいシルドラ家はどうなるでしょうね。ふふっ、今から楽しみでなりませんわ。)
クレハは久しぶりに自身の育った町ミトの門をくぐった。しばらくすると彼女の育ったあの家が見えてきた。そこではマーラとサンドラが庭でお茶をしているようだ。彼女たちはクレハが見えるなりいきなり商品を要求してきた。
「ようやく来ましたか、まったく貴族である私たちを待たせるなんてどういう神経をしているのかしら」
「まったく、お母さまの言う通りですわ。さっさと商品を置いてわたくしたちの前から消えなさい」
「商品はお譲りするためのものではございませんのでタダという訳にはいきません。お金を払っていただけないのならお渡しする気はありません」
クレハが反論するとマーラは仮にも義母とは言えないような事を言い出した。
「なんていう口を利くのかしら、無礼にもほどがあるわ。王国では知りませんが帝国では貴族が絶対ということを知らないのかしら。無礼打ちで殺されたくなければ今すぐ商品を置いてさっさと消えなさい」
クレハは、笑いをこらえるのを必死で隠し、顔をうつ向かせながら何も言わずにその場を立ち去る。
(思った通りですわね。やっぱり商品を奪おうとしてきましたわ。でもこれで、大義名分ができましたわね。ほんと、手のひらで踊ってくれる人たちですわ。愚かな人たち。)
クレハは一人で自身の商会へと帰っていったのだった。
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