第17話 冒険者ギルドに行く

 俺は隔日で、風呂場を十字路の他の店主や店員とその家族にも開放することにした。それ以外の日はもちろん俺とテオフィリアとメガメーデとカサンドラの専用だ。風呂は大変好評で、そのうち機会があれば、露天風呂とかも造ってみたいと思った。

 そして風呂は三日ごとに掃除することにした。風呂掃除は本人の希望もあってメガメーデの仕事になっている。


 夜中のオーク襲撃は今でもたまにある。ほとんどはメガメーデが一人で撃退してしまうが、もし一度に多数が来るとさすがに一人では守り切れなくなるので、他の店主たちも今では武器を常備するようにしてもらっている。

 オークの巣の位置はもう分かっているので、ゾラから冒険者が何度かやって来た。しかし、現在、討伐には成功していない。


「旦那様。オークの巣のことなのですが、私が何とかしましょうか?」


 夕食の時にメガメーデが言った。俺たちが、オークの巣がなくなればもっと客が増えるのにということを話していたからだ。


「一人でかい? メガメーデ」


「はい」


「出来るかもしれんけど、巣のオークの数がわからないし一人だと心配だな。サポートが必要だ」


「しかし、旦那様はともかく、他の魔物狩りに慣れていない人たちと一緒にやるくらいなら、一人の方がやりやすいのですが……」


「トモくん。討伐のメンバーが必要なら、ゾラの町にある冒険者ギルドに行けばいいんじゃないの?」


「ギルドに依頼を出すのかい? テオフィリア」


「依頼はもうペロエの町の商工ギルドが出してるみたいだから、依頼を受ける側になって仲間を募ればいいのよ」


 次の休みの日に俺はテオフィリアとメガメーデを連れてゾラの町へと向かった。ペロエの町からゾラの町へと続く街道は、この地方では最も多くの移動販売車が集まる場所である。

 俺たちが行った時にも街道沿いの左右には隙間がないほどに屋台と移動販売車が並んでいて、往来する人の数も十字路の比ではなかった。


 冒険者の町ゾラにたどり着く。この町はこの地方だけではなく、帝国にとっても非常に重要な町である。

 現状、魔界との最前線に位置するゾラの町に駐留する帝国軍の任務は、魔界からあふれ出て来る魔物の南下を防ぐことだ。ゾラの町に駐屯しているこの軍によって、帝国本土への魔物の侵入が防がれているのである。

 ただし、帝国軍は魔物が北や西に向かうことに関しては全く関知しない。その穴を埋めているのがゾラの町の冒険者ギルドと、それに属する冒険者たちであった。


 西門からゾラの町へ入る。一応門番はいるがそれほど厳格ではなくすぐに入れた。町は商人の町であるペロエのような華やかさには欠けているが人通りが多く、活気があった。

 西門から町に入ってちょっと歩いたところ、目抜き通り沿いに冒険者ギルドはあった。通りの他の建物より一回りほど大きい木造の質実剛健な建物だ。木材の痛みや塗料のスレ具合から見て、おそらく築10年未満だと思う。


 観音開きの重い扉を押して中に入った。2階は玄関側の半分がロフトで、残り半分は吹き抜けになっている。

 建物の一番奥側にある受付カウンターに向かった。受付は3つあり、それぞれ数人の冒険者が順番を待っている。

 俺はテオフィリアとメガメーデと共に、一番短い列を選んでその最後尾に並んだ。


 十分ほどで自分の番が来た。一歩踏み出そうとしたその時、20代後半くらいの坊主頭の大男に割り込まれた。


「何? こいつ」


 テオフィリアは口を尖らせたが、男は振り返りもせずに受付に話しかけた。


「おい」


 俺はその男の肩に手をかけた。周りの人の視線が俺に集中する。


「は?」


 男は肩越しに振り返って俺を見おろした。


「割り込むなよ」


 情けないが喧嘩慣れしていないせいで少し声が震えてしまった。


「おっさん初心者か? Α級冒険者はギルドで待たなくたっていいんだよ」


 ふんと鼻を鳴らしてから、男は言った。男の言ったことが本当か確認するために、俺は受付の若い女性に目をやった。女は小さく頷く。

 どうやらやってしまったらしい。


「悪かった」


 俺は男に頭を下げた。


「ザコが。下らねぇことで時間を取らすんじゃねぇよ」


 男は俺の肩を小突いて言った。

 それを見たメガメーデが、腕を伸ばして男の胸倉を掴む。メガメーデの怪力によって、男の巨体が宙に浮いた。ギルド内のざわめきが一斉に止んだ。


「てめぇ。殺すぞっ」


「ぐうっ」


「いいんだ、メガメーデ。俺が間違ってたんだ。放してやってくれ」


「はい、旦那様」


 メガメーデはすっと手を放す。急に放されたことでその男はその場に尻もちをついた。


「くそ! てめえらの顔は覚えたからな」


 メガメーデに恥をかかされたその男は立ち上がると捨て台詞を残してその場から立ち去った。 

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