第6話 初レベルアップ

「もうすぐレベルアップしますよ」


 車の精霊の声がスピーカーから聞こえた。ついに経験値が溜まったらしい。


「3、2、1」


 カウントダウンが終わると、雷でも落ちたように車内が白く光った。俺は眩しさのあまり反射的に目を閉じる。


「レベルアップ完了しました」


 その声に俺はゆっくりと目を開いた。


「ス〇ルサ〇バー67年式から、ト〇タタ〇ンエース76年式にレベルアップしました」


「お前がレベルアップすんのかい!」


 思わず突っ込んでしまった。てっきり俺自身が強くなるのかと思ってたからだ。

 運転席を見回すと、見慣れた運転席のグレーの内装がベージュに変っていた。運転席も広くなっている。どうやらレベルアップすると車のグレードが上がるらしい。


「レベルアップする項目を確認します。グローブボックスにあるマニュアルを開いてください」


 言われた通りにグローブボックスに入っていた冊子を開いた。最初のページは結界についてだった。

 結界のレベルアップには二種類あって、どちらかを選ばなければならない。一つ目は単純に広さが1.5倍になる。

 二つ目は広さはそのままだが、投てき兵器を防げるようになる。つまり、投石や弓、投げ槍といった攻撃を結界で防げるということだ。


「結界の外からの投てき兵器を防げるのは分かったけど、結界の中から外へクロスボウなんかで攻撃するのもダメなのかい?」


「結界には向きがあります。あくまで防げるのは外からの投てき兵器の攻撃だけです。内から外へ向けての攻撃する場合は何ら支障はありません」


 それを聞いて俺は二つ目に決めた。ゴブリンの投石や投げ槍から車を守れるのは大きかった。


 2ページ目を開いた。ホットドッグの種類を2種類増やすか、ハンバーガーやサンドイッチなどの別の献立を一つ加えるか、どちらかを選ぶ。

 これは悩んだがホットドッグの種類を増やすことにした。新たに加わるホットドッグは、卵とベーコン入りのものと、ヒレカツとキャベツとが挟まれたものに決めた。


 次のページは飲み物のことだった。ジンジャエールに加えてもう1種類飲み物を増やせるが、何にするかを選ばないといけない。選択できる物には、コーラにレモンスカッシュ、オレンジジュースに紅茶などがあった。

 俺は紅茶を選んだ。寒い季節もあるのでホットでも飲めるものがあったほうがいいと思ったからだ。ちなみに紅茶は、砂糖もミルクも入っていないストレートティーである。


 次のページはオプションだった。車に後付けするオプションを選ぶことが出来る。ただしこれにはポイントが必要なようだ。


「350ポイントが付与されています。ポイントを使ってオプションを付けますか?」


「うん付ける」


「車が壊れた場合、修理ポイントが必要になりますので、その分のポイントは残しておいた方がいいですよ」


「どの位残しておいたらいいんだ?」


「100ほど残しておくといいでしょう」


「わかった」


 俺はオプションの表を眺めた。欲しいものを頭の中でリストアップしていく。


 まずはエアコンが目に付いた。50ポイント必要らしい。


「エアコンは魔力で動くのかい?」


「はい。車とは別に、エアコン用の魔石が必要です。魔石一つでおよそ200時間稼働します」


「これは必須だな」


 次に目に付いたのは寝具セットだった。15ポイント。これも付ける。この車は前の車とは違って、荷室部分に一人なら横になって寝れるスペースがあった。


 次はサイドオーニングを付けた。35ポイント。これは車のサイドに付ける日よけ用の天幕のことだ。この車は前と違って後部ではなく左側面に販売の窓口があるので、サイドオーニングを付けるとそこが日陰になっていい感じになる。


 そして最後は荷物が増えてきた時のことを考えてルーフキャリアを選んだ。25ポイントだった。


 オプションを選び終えてから車から降りると、すでにオプションがついていた。

 寝具は車の外に梱包状態で置かれていた。エアコンとサイドオーニングはすでに車に装着済みだ。



「あれ? この車、昨日と違わない?」


 翌朝、起きがけのテオフィリアがこの車を見て不思議そうに首をひねった。


「何しろドワーフ製だから」


「ああ、そっかぁ」


 彼女は秒で納得した。


 営業を始めてすぐ分かったが、前の車よりホットドッグの生成能力が格段に上がっていた。前の車はホットドッグ一つに4分かかったが、今の車なら、どの種類のホットドッグも2分で完成する。

 ジンジャエールも出来るまでの時間が30秒ほどに短縮し、紅茶はホットアイス共に45秒ほどで出来あがる。

 蛇口から水が出る勢いも上がっていて、前の半分の時間で壺を満タンに出来るようになった。


 午後にテオフィリアと一緒に遅い昼食をとるために運転席に入る。広くなった運転席は爽やかなベージュ色のベンチシートで、エアコンがあるので真っ昼間でも涼しい。


「涼しっ。どうして?」


 俺はドワーフの機械のいうことにしてエアコンの説明をした。


「いいなぁ~。極楽だわ、ここ」


 彼女は吹き出し口に顔を近づけて、気持ちよさそうな顔をしている。


 新製品のホットドッグと紅茶が今日の昼食だ。


「ぐうぅ……。これめちゃくちゃおいしいね。このお茶とも合うし」


 テオフィリアはヒレカツとキャベツのホットドッグを食べながら言った。


「こっちも食べてみて」


 俺はベーコン卵のホットドッグも彼女にすすめた。


「あはっ。これもおいしすぎっ。絶対売れるわこれ。しかしトモくんの食べ物、おいしいからつい食べ過ぎてしまうわ。太りそう」

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