第87話 女性サミットへの参加:2024年1月

(南山洋子が女性サミットに参加する)


2024年2月。ネット会議。


「第2回女性サミットをこれから開催します。今の議長は、フランスのルパンがつとめます。第2回女性サミットの議題は、『ユニバーサル・ジェンダー計画』の進捗状況の確認と新メンバーの紹介です。1月に日本で、選挙があり、新たに、南山洋子氏が、首相に選出されました。南山氏に、女性サミットへの参加を打診したところ、快く、引き受けて下さいました」


「1月から、日本の首相になりました南山洋子です。私は、ユニバーサル・ジェンダー党の党首をしています。ユニバーサル・ジェンダー党は、ユニバーサル・ジェンダー計画を日本で実現させることを目的に、新しく作られた政党です。女性サミットの皆様が、ユニバーサル・ジェンダー計画を提案なさらなければ、存在していない政党でもあります。私に、このような機会を与えてくれた女性サミットのメンバーの皆様に感謝しています」


「洋子、謙遜しなくてもいいのよ。女性サミットのメンバーは、ユニバーサル・ジェンダー計画の最初の大きな成果が日本で実現したことをうれしく思っています。また、そのために、洋子が大きな努力をしてきたことに感謝しています」

ルパンが言った。

ドイツのベームが発言した。

「南山様が首相になるまでは、ドイツでは、『経済先進国、技術大国のはずの日本で、70代、80代の男性が国を代表するポストを占めて、大きな影響力を持っていたり、政治家が権力的に、傲慢になって、人脈やコネを優先している』理由が理解できないという声が多くありました。ユニバーサル・ジェンダー党が日本の政治を変えた結果、日本の政治に対する国際的な評価は格段に上がったと思います。もっと自信をもって頂いてもよいと思います」

英国のオースティンが発言した。

「『ユニバーサル・ジェンダー計画』は、手始めに、議員定数の女性優先枠の拡大を目標に活動してきました。その結果、ここに、南山様の参加を得ることができました。現在は、次のステップに踏み出す段階に来ていると思われます。

三権分立の中では、選挙で選ばれた立法府に占める女性の比率は目標に近づいてきています。行政府のうち、内閣、すなわち、大臣に占める女性の比率も、南山内閣では、60%を超えています。しかし、職員に占める比率は、依然として低いままです。裁判所などの法曹界におけるジェンダー問題もあります。さらに、民間企業における女性の雇用が少ない問題もあります。これらの問題についても、引き続き、『ユニバーサル・ジェンダー計画』の展開を図る必要があります」

アメリカのフリーダムが発言した。

「ジェンダー・エクイティ・レポートは、第1弾では、議員と企業の役員に置ける女性比率を問題にしたけれど、いよいよ、次の重点項目を明らかにする必要があると思います。

この問題は、ジェンダー共通フレームワークの改定スケジュールとも関係してきます。どこから、話を始めましょうか」

ルパンが言った。

「やはり、前回のジェンダー共通フレームワークで積み残しになっていた非ジョブ型雇用の問題から始めるべきです。ジェンダー共通フレームワークの次の改定では、非ジョブ型雇用に対する特例措置はなくなると明示しています。ですから、次のジェンダー共通フレームワークの改定スケジュールを明らかにするだけで、動きが出るはずです。本当は、既に、警告を出している訳ですから、自主的に、非ジョブ型雇用への移行が進んでいると思うのですが。洋子さん、日本の現状はどうですか」

洋子が答えた。

「残念ながら、今のところ目立った動きはありません。その原因は、外圧が目に見えるまで反応しないという国民性と、具体的な移行手法を見いだせないという点にあります」

ベームは言った。

「確かに、具体的な実現可能な移行手法が見えなければ、圧力をかけても変化が生じないでしょう。具体的な手法はあるのでしょうか」

洋子が答えた。

「ユニバーサル・ジェンダー党を立ち上げた時から、これは解決方法が見えない大きな課題でした。原因のひとつは、日本では、ジョブ型雇用が少なく、非ジョブ型雇用が蔓延しているため、ジョブ型雇用を正確にイメージできない認知バイアスが生じている点にあります。典型的な例は、同一企業で、非ジョブ型雇用とジョブ型雇用を混在させている場合です。非ジョブ型雇用をしている企業に、ジョブ型雇用を導入する場合には、当たり前ですが、全ての業務をジョブ型雇用に切り替えなければ、うまくいきません。ところが、この非ジョブ型雇用をジョブ型雇用に変えること出来ずに、新規採用者のみに、ジョブ型雇用を適用している例が大多数です。この切り替え方法の構築が中心課題です。数日前、ある企業が、この問題に対して、『ゼロリセット計画』という新しい方法を検討していることを知りました」

「ゼロリセット計画?」と皆が思わず声を上げた。そこで、洋子はゼロリセット計画について、かいつまんで説明をした。洋子はさらに続けた。

「セロリセット計画を検討している企業は、本気で、これを実行するつもりでいます。最大の問題点は、この方法は、前例がなく、合法か否かの判断ができない点にあります。国際司法裁判所で、非ジョブ型雇用は、人権侵害との判決が出れば、リスクをとっても、ゼロリセット計画を実施するかもしれません」

ドイツのベームが口をきった。

「国際司法裁判所の判決は、まもなく、出ると聞いています。女性サミットは、ネット会議なので、費用の制約なく、開催回数や開催時期を自由に設定できます。今回の女性サミットは、ここで中断して、国際司法裁判所の判決が出てから、再開する方が、無駄が少ないと考えますが」

「異議なし」

賛成の声が響いた。

「それでは、今回の女性サミットは、これで、閉会します」

ルパンが宣言した。

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