教員免許

新たな楽器

夏休みの終わり頃、後期の履修登録をする時期にやってきた。前期は何も分からないから莉沙や美乃里ちゃんがいてフル単取ることが出来たが後期からは何の教諭になるかによってそれぞれの科目授業が異なってくるため全部の講義を一緒に取ることは出来ない。私は音楽の先生、美乃里ちゃんは国語の先生とそれぞれ進む道が違うため、教養科目で同じ講義を履修していて被っていればいいなと考えていた。

私は履修登録を済ませ、小学校時代にやったリコーダーを引っ張り出して来て10数年ぶりに吹いてみる。だが楽器おろかリコーダーすら触っていなかったために合唱サークルを終えてから音楽室に残って練習をしていた。

すると莉沙がやって来た。

綾咲どうしてリコーダー吹いているの?

私は音楽の先生になりたくてリコーダーもまともに吹けないなんていけないと思って。

そういう事ね。リコーダーを吹けることも大事だけどあと1つ何か楽器を吹けるようになるとアドバンテージになるかな。私のお姉ちゃんがサックス吹いていたから明日持ってきてあげるね。伴奏弾くからサックスで1曲吹けるように頑張ろう。

翌日から莉沙にサックスを持ってきてもらって合唱サークル後に2人で練習することになり、ひとまず時間のある残り少ない期間ずっとサックスを吹いていた。

夏休みが明けて後期の講義が始まった。

音楽教諭として以前にまず先生になるための科目か何コマかあり、今期もフル単を目指していた。それはマジメだからというよりも実際に教育実習に行くようになってから卒業に必要なものが残っていたら後で大変になるために取れる科目は全部取るという気持ちでいた。

講義は前期より難しく、教職をとるために必要な科目も必修として組まれていて私は美乃里ちゃんと同じクラスで講義を受けていた。

講義が終わると美乃里ちゃんは私に話しかけてきた。綾咲ちゃん、教育学等の必修は難しいしホントに先生になるには1つも単位を落とせないね。

美乃里ちゃんもそう思う?私もこの講義を受けていてそう思ったよ。莉沙や先輩たちサークルと両立していてスゴイよね。

講義後に合唱サークルに向かった。

私は音楽室にいる莉沙に声をかけた。

莉沙は将来何の先生になりたいの?

私は社会の先生で高校では地理を教えようと考えているよ。それがどうかした?

今日から教育学の講義とか始まって内容も難しくなって先輩たち忙しい中、サークルと両立していてスゴイなって思ってさ。

美乃里ちゃんはそういえば部長の里莉さんは?

里莉さんは今日から教育実習で系列の星河学園大学付属小学校に行ってるはずだよ。

私はちなみに里莉さんは何の先生になりたいとか知っている?私たちと被っているなら参考になるかなって思ってさ。

たしか国語の先生って言っていたかな。

私は美乃里ちゃんも将来国語の先生になりたいって言っていたから里莉さんが教育実習から帰ってきたら色々教えてもらってあげること出来ないかな?

莉沙は私の肩を叩いた。それは私に言うことじゃなくて美乃里自身が里莉さんに聞くことだよ。それにグループラインあるから個人同士でやり取りすればいい問題じゃない?

ゴメン、美乃里ちゃん。私、早とちりしちゃって。

そんな事ないよ。綾咲ちゃんがそれだけ私のことを思ってくれているなと改めて感じたよ。莉沙さんが今いった通り里莉さんに個人的に聞こうかなって思うよ。莉沙さんから聞き出してくれてありがとう。

私も人の心配ばかりしていられない。合唱サークルが終わったあと莉沙と2人で残って伴奏を弾いてもらいつつサックスを練習していた。

そこにやってきたのは美乃里ちゃんだった。綾咲ちゃん水臭いよ、サックスの練習しているなら私にも言ってよ。微力だけど手伝えることがあるかもしれないよ。

私は美乃里ちゃんにじゃあ指揮をお願いをした。

伴奏福満莉沙、指揮谷川美乃里、サックス勅使河原綾咲の3人で練習をしていた。すると他の部員たちも集まって私のサックスに付き合ってくれた。

改めて私は1人じゃない。先輩だけど友達のように接してくれる莉沙、友達の美乃里ちゃん、そして同級生や先輩たちがいるなと感じていた。するともう1人音楽室にやって来た。

それは教育実習で忙しくしているはずの部長の里莉さんが中に入ってきた。みんな夜遅くまで何しているの?

里莉さんすみません。私がサックスを吹けるようにみんなが協力してもらっています。

莉沙は一礼してすみません里莉さん、お忙しいと思われますが中に入って綾咲のサックスを聞いてもらえますか?そのサックスでみんなで歌おうと思います。

私たちは最後の1曲として里莉さんに披露した。

すると里莉さんは涙を流して感動したよ。綾咲ちゃんがいつから始めたのか分からないけれどとても初心者とは思えないし1人のためにみんなが協力している姿にも感動させてもらったよ。みんな音楽が好きで集まっているし綾咲ちゃんがかわいくて仕方ないなと思ったよ。明日からまた教育実習頑張ろうと思ったよ。ありがとう。

私は音楽には目には見えない不思議な力があるなと感じた。


3年生

私は2年生まで問題なくフル単で取得して3年生になった。教職を取るのに必要な科目はそうでない学科と比べるとやっぱり多くて大変だなと感じていた。

今までもこれからもそうだがアルバイトして人並みに遊ぼうということは考えなかった。それは合唱サークルの活動が楽しく満足していたからだ。どこか出かけるにしても長期休暇の時に合唱サークルのみんなでみんなに歌を届けつつその土地で買い物をしたり美味しいものを食べるだけで充分でそれ以上のものを求めようとは思わなかった。

この頃になると同級生の中でもマジメに勉強する学生と全く勉強しない学生と2分化されていた。中には必修で隣の席に座っていた人がいなくなっていて退学する学生もいて地元に帰る人もいる。

私は音楽の先生になるべく教科担別の講義も受け、教育実習のガイダンスを美乃里ちゃんと共にさんかしていた。

講義内では学生同士で生徒と先生に分かれて教えあってをしていたがどのようにすれば相手に分かりやすく教えるかとなってくる。

自分でいうのもおかしな話だが教養という意味では出来るが学生同士で教え合うという意味では中々上手くいかない、どうしたらいいのか考えていた。

私には頼れる友達や先輩方がいるから相談してみようと考えた。

ねぇ莉沙、勉強は出来るけれど教えるのが上手くいかなくてどうしたらいいのかな?

人に教えるって難しいよね。じゃあ今日の練習は綾咲が先生になって私を含めて他の部員は生徒役やってみて客観的に評価するよ。現時点での綾咲がどれぐらいの技量なのか分からないと指摘も出来ないからね。

こうして私は先生役、他の部員は生徒役に分かれた。

「今日は音符の読み方について勉強します」

5本線の1番下に音符がくるとファで1つ下がり5本線にかかるとミ、もう1つ下がるとレ、もう1つ下がって横棒を引くとド。ファから1つ上がって5本線の2番目の線にかかるのがソ、もう1つ上がって5本線の2番目にくるのがラ、もう1つ上がって5本線の3番目にかかるのがシ、もう1つあがって5本線の3番目に来るのが高いドでさっき言ったドは低いドになります。

ここで1度ドレミの歌を歌いましょう。

「ド〜はドーナツのド〜、レ〜はレモンのレ〜、ミ〜はみんなのミ、ファ〜はファイトのファ〜、ソはあおいそら〜、ラ〜はラッパのラ〜、シはしあわせのシ〜、さあみんなで歌いましょう〜」

そこまで、綾咲一旦止めて。

綾咲の今の授業を受けてみんなどう思った?

美乃里ちゃんは教えることに必死で生徒の目線を見ていない気がする。その中でも「ド」は低いドと高いドがあることをちゃんと強調していたと思います。他の方はどう思われますか?

伴奏弾いて生徒の目線を見て歌っていたのはよかったけれどそればかりに気を取られていて綾咲に笑顔がなかったから生徒の目を見て微笑みかけた方が生徒たちももっと楽しく歌えると思うよ。後、もうちょっと黒板の字を綺麗に書いた方が見やすい。今の字だとちょっと読みずらい。

この日のサークルは終わって今日でた意見を踏まえてこれからやっていこうかなと考えていた。

翌日からもらった意見をもとに講義を受けて私は比重を教養から周りに教える方に重きをおいて行っていた。そして前期の授業が終わり、テストが行われて夏休みは教えることを中心にやっていこうと考えた。

私は部長の莉沙にその旨を伝えると私は部長を降りるからこれから部長は綾咲にやって欲しい。

どうして私のために莉沙が部長を降りる必要があるの?今まで莉沙が部長やるべきだよ。

莉沙はもう1つ提案した。じゃあ綾咲は教えることをやって私は合唱サークルを運営する方に専念するよ。まず教えることをした方がいいからまずは合唱サークルの身内からその経験を積む方がいいよ。中学校時代みたいな形の部長というよりも今回は生徒に分かりやすく教えるつもりでやってね。

私はこの話を聞いて部長を引き受けることにした。

夏休みが過ぎて莉沙は教育実習で忙しくなるからとそのまま運営の方も任されるようになりより一層頑張らなきゃいけないなと思っていた。そこで美乃里ちゃんは声をかけてくれた。

綾咲ちゃん、1人で悩みこまず私にできることがあればなんでも言ってね。

美乃里ちゃんありがとう。合唱サークルでも勉強でも色々とお願いすることもある思うけれどよろしくね。何かあれば直接でもラインでも遠慮なく言って極力みんなの意見を取り入れていこうと考えているからさ。

綾咲ちゃんそれは大事だけれど何でもかんでも取り入れようとしなくてもいいよ。

教育実習誓約書を提出し、合唱サークルに勉強に奔走した1年となった。

卒業式後、4年生の追い出しコンパを送って私はお世話になった里莉さんに色紙を渡した。


教育実習

3年生の卒業式で私たちは4年生を見送った。

追い出しコンパを終わった翌日に莉沙に私と美乃里ちゃん、莉沙の3人でカフェで卒業祝いをしたいと誘った。

私は莉沙に手紙を読んだ。

「莉沙、卒業おめでとうございます。小学校の時から妹のようにかわいがってくれて時に厳しく指導してもらいありがとうございました。今の私がいるのは莉沙がいたからです。莉沙はこれから先生になって大変だと思いますが私たちに指導してくれたように生徒たちにも優しい先生になってください」

綾咲、ありがとうと涙を流した。これからも憧れられるような先生、そして先輩でいられるように頑張るねと私と美乃里ちゃんを抱きしめた。

2人ともこれからは直接何かしてあげることは出来ないけれど困ったらいつでもラインして来てねと優しく言って莉沙は去っていった。

春休みが終わって私と美乃里ちゃんは4年生になった。この1年がホントに忙しくなるなと思っていた。

私は前期に3週間、母校でもある杜端中学校に教育実習に行くことが決まった。短い期間だが得られるものは大きくてこれまで合唱サークルで部員を巻き込んで生徒役としてやって来たことが発揮される。どんな生徒たち、どんな先生に出会えるのかワクワクしていた。

行く前に私は杜端中学校に電話した。

「もしもし、星河学園大学の勅使河原綾咲です。月曜日からお世話になるので休日になる前にと思い電話させていただきました」

お電話ありがとうございます、勅使河原さん宜しくお願いしますと電話を切った。

月曜日、満を持して杜端中学校に行くと私以外誰もいない。同い年で教育学部の人はいないのか、何だか心細い気がしていた。私は2年1組に配属となった。

2年1組に行って担任の先生から今日から3週間教育実習としてお世話になる星河学園大学の勅使河原さんです、挨拶お願いします。

「先程先生からご挨拶がありました星河学園大学の勅使河原綾咲です。担当は音楽ですがそれ以外でも勉強でも他愛のないこと、相談に乗ってほしいことがあれば気軽に相談してもらえると嬉しいですと頭を下げた。

私の期待と不安の教育実習が始まった。

まず音楽の授業を2年1組から始めた。教科書に載っている合唱曲を伴奏を弾きながらみんなで歌っていた。すると1人の男の子が音を取れずに困っていて周りからちゃんとするようにヤジが飛んでいた。

私はみんなに注意して音を取れるように少し練習をして音が取れるまでやっているとチャイムが鳴った。1人の生徒から出来ない人に合わせていたら周りが困ります。そういう人はほかって次に進まないと授業として成り立ちませんと意見した。

私はたしかにそうだね。みんなクラスの仲間なのにそんな冷たいこと言ったら可哀想だよ。たまたま同じクラスになっただけかもしれないけれど仲間を見捨てるようなことをしたらダメだよと注意をした。

次に音が取れずに悩んでいる生徒が私のもとにやってきた。

綾咲先生、今日みたいに僕のことは構わないで先に進んでください。歌っているフリした方がクラスのみんなに迷惑かけずに済むので。

ホントにそれでいいの?音が取れなくて負い目を感じるのは分かるけれどそれで音楽を嫌いにはならないで欲しいな。歌って1人で歌うよりもみんなで歌うから楽しいと私は思うよ。偉そうなこと言っているけれど私も小学生の時は合唱部に入っていたけれど楽譜も読めずどうしようか悩んでいた時期があるよ。

綾咲先生はどうして合唱部をやめなかったの?

それは歌うことが好きだったからかな。音痴でもいいみんなと歌おうと諭した。

給食の時間になり、私は2年1組に戻った。

私が中学生時代とは比べ物にならないくらい見た目も派手でおいしそうで今の子は毎日こんなものを食べているのかと羨ましく思った。

見た目は変わっても給食を食べるとどこか懐かしさを感じていた。

綾咲先生、ちょっとよろしいですか?

給食を食べ終わった私はどうしたのか尋ねた。

1人の生徒が数学を教えて欲しいと聞いてきた。

数学は苦手だなと思いつつも中学生の数学ならどうにかなる。勉強でも相談でも聞くと言ってしまった手前、教えないという選択肢はなかった。

方程式が分からないと聞かれた。エックスはエックス、数字は数字で入れ替えてプラスマイナス変えるよと紙に書いて説明して渡した。

その後、勉強を教えて欲しいという生徒が増えてその度にどんな問題を聞かれるのかと怯えていた。

生徒たちはどう思っているか分からないが個人的には生徒たちに溶け込んでいるのではないだろうか。

翌日からは2年1組の生徒だけでなく他の生徒たちも会ったら挨拶をしてくれていい子だなと感じていた。この日は授業後に合唱部に寄った。

懐かしの合唱部に行くと当時私が通っている時に全国中学校合唱サークルで金賞を取った時の賞状が飾られていてとても嬉しかった。

合唱部の生徒たちは私に一礼して顧問の先生はあの賞状にある全国中学校合唱サークルで金賞を取った時のメンバーだと伝えると綾咲先生スゴいですね。どうしたら先生のようになれますかと目を輝かして私を見ていた。

練習を見ていて気づいたところをこうした方がいいと提案するとすぐに吸収して生徒たちは歌っていて1人1人のレベルが高いな、当時の私が見たら圧倒されてメンバーに入れないだろうなと感じていた。この日から顧問の先生に頼まれて私も合唱部を指導することになった。

きっとこの背景には私が杜端中学校出身で全国大会金賞を取ったからその時の練習法、心構えを教えて欲しいという思いだろうなと感じていた。

音楽の授業を担当し、合唱部の指導もして楽しい日々を過ごしていて大学に戻らずずっとここで先生として働きたいとすら思っていた。

合唱部の生徒が私に相談があると声をかけてきた。

綾咲先生、相談があって聞いてもらっていいですか?

もちろんだよ。私になんでも話してみて。

私、将来は綾咲先生みたいな先生になりたいと考えているんですが勉強苦手でどうしたらいいのかなって思って……。

勉強苦手だからか……。私が中学生時代なんて合唱しかしてなくて勉強なんて全くしてなくて高校も合唱で頑張っていたら声をかけてもらった感じだから合唱をしていなかったら今頃どうなっていたか考えるだけでも怖いよ。そう考えれば今から勉強すれば間に合うと思うし中学生の時なんて何も考えていなかったから偉いと思うよ。

綾咲先生は勉強が苦手だったのに将来先生を目指そうと思われましたか?

話せば長くなるけれど小学校時代にいた合唱部の先生がある事情でいなくなっちゃって私が通っていた高校に赴任してきて勉強を教えてもらったり色々としてもらううちにこんな先生になりたいなって思ったのがきっかけで勉強して系列の大学に教育学部があるからそこに進学した感じかな。

こうやって合唱部のみんなやクラスのみんなと出会えて私は幸せだしかわいい生徒たちだなと関わって学ぶことが沢山あるよ。

そう伝えると笑顔で綾咲先生に相談してよかったですと笑顔で帰っていく姿を見ていて中学生の時なんて合唱一筋で勉強なんて全くやってこなかった自分が恥ずかしく思えてきた。

みんな綾咲先生と声をかけてくれて他愛のない話や悩み相談、時には恋愛相談を受けることもあったが恋愛とは無縁の生活を送ってきていて自分が男の子だったらどうか、女の子はこうしたら喜ぶと思うよとアドバイスをしていた。

そして相談を受けるのは生徒のみにとどまらず先生からも愚痴や相談を受けることになった。

ある日、なぜ相談相手が私なのかある先生に尋ねた。

先生は生徒たちから綾咲先生なら他愛のない話や悩み相談なんでも乗ってくれるし的確に答えてくれるから先生も何かあれば綾咲先生にって言われたので、ダメですか?

私は構いませんがこんな教育実習の若造でちゃんと的確に答えられていますか?

職員室にいた先生はみんな親指を立ててグッドと言ってそれならいいですがと答えた。

私は合唱部で教えて欲しいと顧問の先生に頼まれたが他の先生に相談事とかされて中々部活に顔を出せずにいて気がついたら教育実習も3週間が経とうとしていた。

2年1組とは別のクラスの女の子から綾咲先生に相談したいと私のところに来てくれた。

私は相談って勉強のこと?それ以外のこと?

こんなこと相談してどうするのって思われるかもしれませんが私、趣味もなければこれからどうしていったらいいか分からなくて……。こんなどうでもいいような質問してすみません。

そんな事ないよ。私も中学生の時から先生を目指していた訳でもないし、元々音楽が好きだったというより友達に誘われて合唱部に入って歌うことが好きになって気がついたら歌うことばかり考えていて中学生の時は全く勉強をしていなかったよ。高校も合唱で推薦をもらったようなものだから合唱やっていなかったら今どうしているのか考えると怖いよ。

だから逆に中学生でそういう風に考えられるのは偉いと思うし努力すれば何にだってなれると思うよ。

綾咲先生は合唱部も教えていると思うので合唱部に来ないって誘うことしないのですか?

それは私が合唱部においでって言っても音楽が好きじゃないのに無理やり誘っても途中でイヤになって辞めちゃうでしょ。それならホントに自分のやりたいことを見つけてやった方がいいと思うよ。そのために色々な部活に体験入部をお願いして自分がこれなら出来そうって思った部活に入るのがいいのかなって思うよ。

すると女子生徒は泣き始めた。

ちょっと泣かないで。私が泣かせたみたいになるよ。

こんなくだらない質問にもちゃんと考えてくれて答えてくれる人が綾咲先生が始めてだったもので。もうすぐ綾咲先生がいなくなると思うと寂しいです。

私はその言葉だけで充分だよ。

こんなこと言うのは失礼かも知れませんが綾咲先生は今からでもホントの先生として働けると思います。生徒1人1人を気にかけてくれてこんな優しい先生がいるならば誰にも言えない相談をしてもちゃんと受け答えしてくれそうだと思うからですと大きな声で言ってくれた。

私はその子の頭を撫でてそんな嬉しい言葉を言われたの始めてだよ。先生としてちゃんと出来ているか不安だったけれどそのひと言で自信を持てたよ。こちらこそありがとう。

そして教育実習の最終日を迎えるようになった。

これで生徒たちに会えなくなるのが寂しい、大学に戻りたくないという思いに駆られつつも2年1組で最後の挨拶をした。

「この3週間、皆さんのおかげで楽しい教育実習を過ごすことが出来ました。今回の貴重な体験を忘れずにこれから頑張っていこうと思います。この杜端中学校2年1組を離れるのは辛いですが皆さん自分の目標に向かって頑張ってください」

すると担任の先生から綾咲先生ありがとうと描かれた色紙を渡された。私はそれを見て堪えきれずに思わず涙を流した。

私は涙を拭って担任の先生にスマホを渡して写真を撮ってもらった。

授業後に合唱部にも挨拶しようと音楽室に向かった。黒板を見て驚いた。

「綾咲先生、ありがとうございます」

そして似顔絵が描かれていてまたしても私は涙を流した。顧問の先生はピアノに座ってせーのと声をかけた。

何が始まるのかと思うと私のためにわざわざオリジナルソングを作って送り出してくれて号泣していた。こんなプレゼントがあるなんて、杜端中学校にはいい子たちばかりだなと感動していた。

合唱部では黒板の似顔絵をバックに写真を撮って最後色紙をもらって杜端中学校を後にして短い教育実習を終えた。


教員採用試験

名残惜しつつも星河学園大学に戻ってきた私は杜端中学校の優しい生徒たちに恵まれていたことを早く美乃里ちゃんに言いたくて仕方がなかった。

私はラインで美乃里ちゃんを大食堂に呼んだ。

綾咲ちゃんどうしたの?お昼ご飯一緒に食べる?

うん、お昼ご飯一緒に食べようと思って呼んだのもあるけれどちょっと美乃里ちゃんに見て欲しいものがあって。

私に見せたいもの?先に頼んで持ってくるからちょっと待っていて。私も序(ついで)にお昼にうどんを頼み、そして椅子に座って私はスマホを見せた。

私が教育実習で行ってきた母校の杜端中学校だけどみんないい子たちばかりで勉強や他愛のない話や悩み相談など色々とされて最終日にはクラスの子たちから色紙もらってさ。それがこの写真だよ。

色紙をもらうなんてスゴいね。みんな綾咲ちゃんのことを慕ってこの人なら話しやすいし相談してもちゃんと受け答えてくれるって思ってくれたってことだと思うよ。

もうみんなかわいい生徒たちばかりで綾咲先生って会ったら目を向いて挨拶してくれるし、最後の方なんて学校の先生までも愚痴や相談を聞いてくださいっていう感じで私でいいのかなって思っていたよ。

先生たちにも信頼されていたってスゴいね。

それが先生に聞いてみると生徒たちが困ったら綾咲先生に相談すれば大丈夫って言ってくれたみたい。今考えればなんだか根回しされていた気がするけどね。

根回しされていた気がするっていうと……?

私ね、クラスの子たちの他に合唱部を教えて欲しいって言われていたけれど先生に呼び止められて話とか色々と聞いていたこともあって中々音楽室に行って合唱部を指導することが出来なくてお別れの日に音楽室に行ったら私の似顔絵とオリジナルソングで送り出してくれて思わず号泣しちゃってね。似顔絵と合唱部の子たちと撮った時の写真だけど凄くない?

似顔絵めっちゃ綾咲ちゃんに似ていてかわいい。ここまでしてくれるってよっぽど好かれていたのかなってよく分かるよ。私も今度教育実習行くけれど綾咲ちゃんのように生徒たちに好かれるか心配だな。

私は美乃里ちゃんに生徒1人1人に目を向けて出来なくても分かるまで教えてあげるなどすれば大丈夫だよ。きっとみんな優しく出迎えてくれるし帰る時には大学に戻ることを躊躇(ためら)うくらいの気持ちになるよ。

そして美乃里ちゃんは私と入れ替わるように教育実習で系列の星河学園大学付属中学校に向かった。

私は毎日の記録と教育実習での経験をレポートにまとめて提出した。今度は教育実習じゃなくてホントの先生として再び杜端中学校に赴任出来たらいいなと思うのと同時に教員採用試験に合格するとより一層強い気持ちが高まった。

3週間後、教育実習から戻ってきた美乃里ちゃんから話を聞きたいと思いラインで時間がある時に会おうと連絡をした。するとサークル後に晩御飯を兼ねて話そうということになった。

私は部長として運営から指揮、指導まで一手に担って大変だけどみんなが協力してくれているおかげで助けられているなと感じている。そう考えると里莉さん1人で全てこなしていたと考えるとスゴいなと感じていた。

サークル後、美乃里ちゃんに誘われて2人で大学近くのファミレスに向かった。

私はチーズハンバーグセット、美乃里ちゃんはおろしポン酢ハンバーグを注文して待っている間に尋ねた。

美乃里ちゃん、教育実習どうだった?

系列の星河学園大学附属中学校に行ってきたけれど懐かしいさがあって変わっていないところもあれば変わっている所もあって驚いたよ。綾咲ちゃんは教育実習に行った時、1番何に驚いた?

私は給食のクオリティの高さに驚いたかな。今の中学生ってこんなにいいもの食べているのかって感じたかな。美乃里ちゃんは?

私も給食には驚いたし、音楽室なんて通っていた時と比べたら見違える程変わっていてこんな環境で合唱できるなんて羨ましいと思ったよ。

中学たちが先生って頼ってくれる感じがかわいくなかった?

めっちゃかわいかった。美乃里先生教えてくださいとかあまり生徒たちと隔たりを作りたくなかったから私のことは美乃里ちゃんって呼んで欲しいっていうと担当のクラスはもちろんだけど美乃里ちゃん話があってとか相談があって聞いて欲しいとか言われて頼りにされているなと思ったらなんか大学に戻らずにずっとここで働きたいとすら思っていたよ。

2人で子どもたちが懐いてくれて慕ってくれることが嬉しくかわいいと話していた。

美乃里ちゃんも毎日の記録と教育実習のレポートを提出して2人とも残すは教員採用試験を受けるのみとなった。

卒業まで私は勉強と面接の練習を美乃里ちゃんと共に練習をしていた。2人とも全国各地の教員採用試験を受けようと考えていて地元にこだわらず受けようと話し合っていた。

歳月が経って3月になり、私と美乃里ちゃんは星河学園大学教育学部を無事に卒業した。

私たちは大学の学生証を返却しているので図書館や各施設の利用は出来ないものの私服を着ていれば食堂などで勉強すれば特に問題はないため、よく食堂で勉強してお昼ご飯を食べて夕方には合唱サークルに顔を出すという生活を過ごしていた。

合唱サークルでは綾咲さん、美乃里さんこんにちはと挨拶をしてくれる後輩で教育実習はどのような感じなのか、勉強が分からないから教えて欲しいと言われれば私たちは自分たちの勉強も兼ねて教えていた。

私と美乃里ちゃんは両親には申し訳ないが全都道府県の教員採用試験を受けるべく願書をそれぞれ提出した。絞ってまた翌年受けるよりも1つでも合格が取れるならばと受験をして美乃里ちゃんは兵庫県の教員採用試験で合格して地元を離れることになった。

そして私は京都府の教員採用試験を合格することとなり、2人とも翌年から正式に先生となって後は配属の公示を待つだけとなった。

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