常にガスマスクをして生活するようになった少年・ステューと、その幼なじみの少年・アーバナイトの、とある一日の物語。
ゴリゴリの青春小説です。スチームパンク世界ではあるものの、でも冒険やアクションではない、ただただ純粋な少年同士の友情の物語。いわゆる「厨二病」的な症状そのものを題材に、でもネタや皮肉に走ることなくまっすぐ描き切った、王道かつ極上の青春小説です。なにこれすっごい良い……。
電気電子的な要素の存在しない、でも機構や蒸気機関等の発達した産業世界。それが活躍の舞台としてではなく、「ただ主人公の周囲の環境としてのみそこにある」ことの、このえも言われぬ心地よさ。
ステューくんの一人称体で描かれるからこその魅力というか、彼の世界観が思春期特有のそれであることも相まって、この世界自体が感性に直接突き刺さってくるかのような魅力がありました。解像度というか、はっきりと肌で感じ取れる肉薄感のような。
その上で、この物語が読者に叩きつけてくる内容の、そのひりつくような感触とその先の爽やかさと言ったら!
〈 以下は若干ネタバレが含まれますので注意 〉
終盤の山場が好きです。ずっとガスマスクをつけていたステューくんが、アーバナイトくんに迫られてそれを外すところ。あの場面の、なにか自分で作り上げたカサブタのような秘蹟を、でも自らの手で一枚一枚引き剥がしていくかのような、あの生々しいハラハラ感が本当にたまりません。すっごい。なんでこんなに胸にビリビリ刺さってくんの?
その上での結末、それを超えた先だからこその帰着点の、このなんとも言いようのない爽快感! もう最高でした。本当に「良かった……」以外になにも言葉が出てこない感じ。面白かったです! 良かったー! うおおおーーー!