古い映画館のスクリーンの前で白目を剥いて泡を吹いてほぼ虫の息の監督を覗く目があった。

"彼女"はその作品のラストシーンを任されている。

ここまで監督の個人制作で進められてきたこの作品だが、流石に自分の全身を裂くのは無理であり、完全に本物の解体を映像に残すには人の手が必要だった。

当然、"彼女"は快くこのオファーを受けた。

この作品の構成は簡単に序破急に分かれる。

序、9本のナイフは9人の人を様々方法で殺す。

このタイミングで人の裂き方がわかりやすく描写される。

破、作中で9本のナイフで繰り返し少女を裂いた殺人鬼は自ら自分の体を裂くことになる。

急、どこからか現れた"彼女"はこれまでの展開をこの映画館のスクリーンで観ていた。

"彼女"なら解る。

人の裂き方。

人の構造。

監督の体の構造。

9本のナイフの使い方。

眼球の抉り方。

本物の映像作品に、触れた"彼女"なら最も容易く。

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