ガール・ミーツ・アーマー
「あーん、ひほふ、ひほふぅ~」
玄関先から少女が転がり出た。並木に小鳥がさえずり、屋根が暁色に染まる。石積みに蔦が絡む瀟洒な邸宅はキラキラと砂金がまぶしてあり、世帯収入が伺える。
エスキスの朝は早い。すでに雲間を絨毯の群れが泳いでいる。乗っているのはバーゼノン
年の頃は十代前半だろうか、襟の大きな上着に紺色のプリーツスカートをなびかせ、要塞後方の尖塔をめざす。
「待ちなさい!」
半歩遅れてふっくらとしたエプロンドレス姿の中年女性が追いかける。
肩に学生かばんをかけ、あたふたする様はおおよそ似つかわしくない。彼女も魔女なのだろうか。
「ひほふ、ふる~」
先を行く少女の格好も奇妙だ。上着は濃紺の制服にサーモンピンクのペチコート。ちょこまか揺れ動く裾から白い生地が見え隠れする。
口にくわえたクロワッサンが落ちそうだ。
「初日から寝坊する子がありますか」
追いかける側は母親であろうか。折りたたんだスカートを手にしている。
「らって、をはぁ~はん」
ペチコートの乱れなどお構いなく少女はピョンと生け垣を超える。
「こぉれ、フェルミ! スカートぐらい履きなさ…」
母親が声を張り上げたとき、曲がり角から物凄いスピードで影が現れた。そしてフェルミと鉢合わせする。
「うおっ!」
「ひゃん!」
男女が尻もちをつく形で向かい合う。フェルミの正面には黒光りする甲冑が情けない格好で擱座している。全身をぴったりと硬い金属質で覆い、袖口や胸、腰に銃口らしき穴が開いている。肩には小さな砲身が載っており、顔もフルフェイスマスクがガードしている。フェルミにとって見たこともないデザインで、それ以上は形容しようがない。かろうじて声から相手の性別がわかる程度だ。
「痛ったぁい!」
対するフェルミは両足を開いたままうめいた。
「ご、ごめん。急いでいたもんで」
甲冑の男は頭を下げた。しかし、それが火に油を注いだ。
「バカッ!」
ストレートパンチが彼のフェイスプレートをたたき割ったのだ。
「ご、めん」
蜘蛛の巣のようなバイザー越しにフェルミが仁王立ちしている。
「見たわね! わたしの…」
「な、何が?」
甲冑男は答えを知る前に意識の闇へ沈んだ。
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