徹夜のおともはオリーブオイルとアサリとパスタ

店内を見回すと物量に圧倒される。まず単品あたりのボリュームが違う。冷凍カット野菜2キログラム、焼きのり三百枚、無調整豆乳三千ミリリットルなどなど。一般家庭では持て余してしまう。それを厳しい目つきで客が吟味している。そこへファミレスの制服を着た女性が駆け込んできた。「〇〇のデミグラスソース1ℓはありますか」

従業員はひょいと四次元ポケットから取り出したようにボトルを渡す。つまりそういう客層がメインだ。

ここで私は夜職の胃袋をつかむ食材を仕入れる。「おおっ」と喜ぶメンバーが目に浮かぶ。

しかし私みたいに手練れはともかく一般客はどうすればいいのだろう。パウンドケーキの平積みを見てフリーズするかもしれない。しかし常連らしき主婦がちらほらといてまず後について買い回ればいい。

眼に入るのはパスタやカレーなどのレトルト食品だ。すぐと調理出来て保存期間も長い。

パスタは2リットルほどの湯に塩を一つまみ入れてぐつぐつ沸騰させる。でも職場の男性陣はアルデンテが大好き。茹ですぎると腰がなくなるので芯の硬さが少し残る程度にする。そして彼らはオリーブオイルをよく使う。恐らくテレビの影響だろう。香り高く上品なヴァージンオイルをアツアツの皿めがけて滝のように注ぐ。

デミグラスソースは使わない。スーツの袖や端末が汚れるからだ。オリーブオイルはいいのか。

ともかく具材はざく切りしたキャベツと砂抜きしたアサリだ。テストプログラムの実行中に塩水につけておく。

フライパンで酒蒸しすると蓋がひらきジュワジュワと肉汁がこぼれる。これはパスタの煮え湯と一緒にとっておく。フライパンにオリーブオイルを垂らして一回転。中火でパチパチとオイルがはぜる。

そこに唐辛子とニンニクを投入。ふわあっと水蒸気がおいしいにおいを発散させる。

ざく切りキャベツを追加。ながながと加熱しない。アサリを汁ごと混ぜると白ごはんが欲しくなる。

えっ、炭水化物をおかずにするのかと関東から来たプログラマーは驚く。

ここは大阪の台所。道頓堀に面したオフィスだ。黙って郷に入れば美味しい料理も腹に入る。

煮汁を足してぐるぐるかき混ぜると出来上がり。人差指でちょいと味見。塩気を加減する。


つい妄想してしまった。ああ、徹夜が待ち遠しい。

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