ゾンビ

現場を指揮する小池が警察手帳を兼ねたカードをかざした。

「いや、いい。それより剖検の結果を知りたい」

沢原は慣れた手つきでカードを撫でた。顔写真の入った表面がプルダウンメニューに切り替わる。報告書があがってきている。

DNA提供による生体認証に同意して担当部署にアクセスした。

「脱水症状の形跡がない? 何だこりゃ」

水野が血中濃度の異変に気付いた。水分損失量は1%以下でナトリウムの比率も許容範囲内だ。

「犯人は雨ごいをするほど渇していなかった。せいぜい、汗ばむ程度だ」

沢原のカードには容疑者の健康状態が次々とリストアップされる。

「渇水テロリストじゃない? じゃあ、目的は何なんだ??」


水野は泥沼にはまっていく自分を想像した。「そうだよ! 雨ごいだ! 雨ごいをするどころか水を吸いすぎだ!」

小池の表情が硬くなった。

「雨ごいの目的はおそらく、栄養補給だ。ここ数十年、雨ごいは日常的に行われている。そしてもちろん、雨ごいの行為や雨ごい自体の効果も継続される。」

「継続される? しかし、雨ごいは止まったわけではない。雨ごいが原因の健康被害は、その後も続いている。」

「雨ごいは自然災害で、雨ごいは災害だ。雨ごいの効果が継続されないのに異常に栄養価が減少というのは何かしらの理由が存在する」

小池の発言に沢原は眉をひそめた。

「原因が栄養不足だ。栄養不足で雨ごいするのは異常だ。雨ごいの効果がない以上、栄養価も減少する。そういうことだ」

「異常が原因を挙げているとしたら?」

「原因が異常だというのなら、このようにやっている」

沢原はカードをとりだした。そのカードには、沢原の逮捕する前に捜査協力で協力を要請するように書いてあった。

しかし、誰がどんな理由にせよ、この件は未然に防ぐべきだろう。沢原は念を押すように小池に言った。

「これからは、雨ごいが原因の健康被害が続いていたと、警察が判断するときは、その原因は雨ごいではないのではということが必要だ」

「雨ごいによる健康被害の可能性は?」

沢原は疑いの表情を隠すことなく問いかけた。

「これからは、異常な気象の影響から、雨ごいによる健康被害が続いていたとしても安全ではない。今回の件が不作であったこともまた事実なんだ」

「沢原、この事件を起こしたこと、覚えているだろう?」

いつの間にか横にいた小池が沢原に話を振った。

「お前は覚えてないのかよ?」

「この事件の前から記憶に残っていた。この事件はいったい何なのかということだ」

沢原はそう言って、自分のスマホ画面を見せた。

それは『警察が公開した映像』であり、この事件についてのデータが、そこに残っている。

「これが今の警察で、この事件について、公開されているわ……」

「こんな資料をもらったのか?」

「よく分からないけど、警察でもこの情報をみんな知ってるのは俺くらいじゃないか? それだけこの情報が重要になってきてるってことだよ」

「それから、事件発生してからどれくらいの期間が経った?」

「いや、それが分からないんだ。でも、事件の現場となったこの地域一帯で、多くの住民が死亡した、ってことは覚えたけど」

「被害に遭った住民の全員が死亡したわけじゃない……。ただ、住民全員が感染者として死に絶えた。その後、この土地はゾンビに襲われて大変だったようだよ」

「それで、この土地でゾンビが現れた経緯は?」

「今は、それが誰に感染したか分からないらしい。もしかしたら….それは感染者でない住民かもしれない」

沢原は、続けてその土地のことを話してくれた。

事件が起こった土地から移動した理由、そして、そのゾンビが出現した経緯について。

「被害者全員の血液がゾンビになったんだ。その血液自体にウイルスが混じっていたのかもしれない。そしてそのゾンビの血液を採取しようとして、その血液について調べたら……。こんな情報が出た」

沢原は、地図をスマホの画面上に表示させた。

それは、この土地の地図に、この地域一帯の地図、そして、この地域に存在するゾンビの名称などが載ったものである。

「これ、なんだろ? 今この土地にどんなゾンビが、どのように現れているの?」

「この地図上、ここに書かれている『ゾンビ』の数は3体だ。これがここのゾンビなのか、この土地にどれほどの感染者がいるのかが、これから調べられていくうちに分かってくる。それまでの間、こ

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