花菜の目線


主婦は包丁を振り回していた。


コンクリートの床に新鮮な肉が転がり、血の雨が降る。

夫婦喧嘩とは、文字通り血の雨のように、離婚するかもしれないという夫婦の喧嘩をすること。そしてもうひとつ、コロナ(夫の病)。

しかし、夫婦喧嘩という不毛な戦いに定収入を削られ、「もう離婚で」などという、不毛な戦いが繰り広げられ続けているのだ。

私は「夫婦喧嘩」という文字も見たことがなかったので、こうして文字にすることが出来た。

私は今、この瞬間をどうやって生き抜くというのか。

つい、声を荒げた。

「うるせえな。夫婦だから戦えばいいだろうがよ」

彼は開き直った。

「そんなこと言うなよ。お前だって毎日食べてるじゃないか」妻

「いや、でもさ.....」、と私は言いよどむ。そして考え、続けて言った。

「そんなのただの言い訳だっつの。そんなの、ただの言い訳でもなんでもないじゃん」

彼は言う。「そ、そうかな」


いや、確かにその通りだ。

夫婦ってそんなもんだろうと、思ってしまう。しかし、これはただの喧嘩じゃない。

夫婦喧嘩。この事実を認識したときに、私は「そういえばこいつ、喧嘩する奴だ」

この夫婦、いや、夫婦のいざこざは、やがて小さな村にも伝わることになるのだ。「夫婦喧嘩」という文字を、知ったのだった。

「ただいまー」

しかし、そこに私の存在はなく、私の家は静まり返っていた。

「ふぅ」「......あれ?」

私は、自分の目が、何かおかしいことに気付いた。これは、涙でも鼻水でもない。何か、見えない何かが、

私の中で震えている。私は、その何かに手を伸ばした。

何かは、私の手は届かなかった。

私は、その何かに、手を引かれて家の中へ入ってしまったのだった。

家の中は、私が知っていると、思っていた部屋だった。

しかし、私がいた家とは異なる。

家具はなく、部屋全体が、薄汚れたリノリウムの床で覆われていた。なぜ、ここはこんなにも荒れているのだろうか。

私はその床を見て、また、涙が出てきた。

涙がとまるのを待って、私はもう一度、部屋の床を見る。

すると、私がいつも座るその場所には、いつも私が座っている椅子に座る男の姿があった。

男は、私を見た。

「......おかえり。花子ちゃん」

「花子ちゃん」

私はその声に、心が震えた。すると、今まで感じたことのないぐらい、心が、満たされるような、感覚と嬉しさに包まれ



た。その後、私は初めて、涙を我慢しないと言われた。

「......お疲れ様」

私は、そう言葉を紡ぐ。

すると、男はこちらを見ずに、「そんなに悲しい顔するなよ。俺は、ただ、泣きたくて泣いてるだけだし」と言いながら、どこかへ行こうとした。

「行かないでよ」

私の声は、男の背中に届く。

私は、男を待つしかなかった。そして私は、涙が止まる。

「俺と、これからの、俺と結婚してくれ」

「は、はい」言い終わると、男の目から涙が止った。

「よし、俺は、俺たちは、俺の家の夫婦だから喧嘩はしても、別に俺は何も言わないぜ。ただな、俺は、これだけは、約束してくれ」男は、私の前で、拳を握るが、顔を上げられず、私の目から涙が流れようが、泣きながらその場へついた。

「花子ちゃん......」

涙を流しながら男の名を叫ぶ私を見て、男は、驚いていた。

「......あ、あの......私、もう、終わりです」

「..........うん」

私の目から零れる、涙を見て、男は、私の手を握りながら言う。

「......俺、頑張るから。今日から、一緒に住もう」

男は、私の目から雫を流している。

「ありがとう......ございます」

私は、涙する男の手を優しく包んだ。

「俺だって、負けるが負けるが......」と男は、私に言い終わる前に涙を流した。私は、男の手を、優しく、強く、強く握り、

「本当にありがとうございます」

男の手をたしかめる。そこに、男から発つ、感情が涙に混じって流れていた。

「..........花菜......」

「..........はい」

「........花菜」

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