メルとアルフォンス

弾けた肉片と鮮血を撒き散らしながら倒れると、今度は背中を撃ち抜かれ、

――ズバンッ! 胴体が切断され地面に転がる。すると間を置かず四肢が切り刻まれ、首が落ちた。するとロボットは動きを止めたが、しばらくすると頭だけが勝手に動き、辺りを見渡すような仕草を見せる。「ひっ」アムが恐怖で顔を歪めるがロボの首から下の部分がアムに近づき、「うわぁ!」アムは悲鳴を上げる。しかし、よく見ると首だけの状態であり、ロボの目がこちらを向いた。すると……、

――ピーッ! 突然の甲高い電子音。そしてロボットの目から光が消えると首から下の部分が爆発した。


* * *


* * *

*

「おい、メル!」とアムの叫び声を聞き、「な、何!?」とメルは振り返るが何もなかった。

「……」

気のせいかな。メルが不思議そうにしているとアムが手招きして、指差す。その方向にメルが向かうと、アムの仲間が数人いたが皆倒れ伏している。

「これはいったい……」メルが尋ねると、仲間の一人が震え声で答えてくれた。「あいつだ。あの化物だ。あいつが来てからみんなおかしくなったんだ」「え……」メルが絶句して立ち尽くすと、「うぐっ」と誰かのうめき声が聞こえた。

「大丈夫か?」と駆け寄ると、「うぅ……」と返事があった。「メルか?」と訊かれ、メルが「ああ、俺だよ」と言うと、「お前、生きてたのか……」と安堵の声が上がる。「ああ、なんとかね」とメルが言うと、「それより、ここは危険だ。早く逃げよう」とアムが促した。

「そうだな」とメルが同意し、仲間たちに「立てるか?」と訊くと、「あぁ……」と力のない返事が返ってきた。アムと二人で一人ずつ担ぎ上げる。

「重いぞ……」

「ごめん……」

メルとアムの二人が歩くと砂埃が上がり、足跡がついていく。すると……、

「……」

何かいる。そう思ってメルが立ち止まるとアムがどうした? という表情をしたので、「いや、今……」と言いかけて言葉を飲み込んだ。「なんでもない」と答えて進むが、確かに何かがいた気配が残っている。

砂煙の向こうから聞こえる足音は一つじゃないし複数人のものだ。しかも、砂煙の合間からちらりと見えたのは……二足歩行する生物ではないし、もちろん人でもない何か。それが群れになって迫ってくるようだ……。メルは嫌な気分になった。こういう予感だけはいつも当たってしまう。

*

「あの……ここは……」

廃墟の都市には誰もいなかったが、「この道でいいのか?」と思う方向に歩いているうちにどんどん薄暗くなっていった。やがて視界は真っ暗になり、メルは手探りで進むしかなかった。

「おい! 誰かいるんだろう!?」

大声で呼びかけるが返事はない。しばらく行くと前方に明かりが見えてきた。光は徐々に大きくなり、ついにメルは建物の中へと足を踏み入れた。「……」

建物の中には机や椅子が乱雑に置かれていて、床には紙束や本などが散乱していた。

「ここって……」

メルが呟くと、「おぉ……」と背後から感嘆する声がした。

「なんだ、まだ生き残りがいたのか」

振り返ると男が立っていた。「誰だ?」とメルが問うと、「私の名前はエル・ヴァン・セクター35。君たちの敵だ」と男は言った。

「敵……?」メルが困惑すると、「そうだ」とエルは言い、「ところで君はなぜここに来たんだ?」と尋ねた。

「俺は……」とメルが言いかけると、エルは遮るように「いや、言わなくていい」と言った。

「どういうことだ?」

「君は我々の同胞を殺しすぎた。だから、ここで死んでもらう」エルが言うと、「なんだよそれ……」とメルは言い、そして、「ふざけんなよ……」と吐き捨てた。

「……」エルは何も答えず、ただじっとメルを見るだけだった。

するとメルがいきなり走り出した。

「待て」エルの声がするが、メルは無視して走った。

「……」

メルはエルを無視して建物を出た。そして、敵を探した。

敵の数は十人程度で、メルが一人になるのを待っていたらしい。全員が武装しており、銃口を向ける。「死ねぇぇ」

一斉に発砲する。しかし、銃弾はメルに届く前に弾かれた。

「なにぃ……」

男達が驚くが、メルは構わずに突進した。そして、まずは手前にいた男の頭を掴んで握りつぶすと、隣に立っていた男を殴り倒した。「うぎゃあ」と断末魔の声を上げながら倒れた男は動かなくなった。

「こいつ、強いぞ」

残った男たちは警戒し、メルを取り囲むように散開した。

「死ねえ」一人の男がライフルを構える。

メルは避けようとせず、そのまま突っ込んでいく。

「馬鹿め」

男が引き金を引く。

――ズドンッ! 轟音が鳴り響くが、メルは止まらなかった。

弾丸はメルの横を通り抜け、後ろの建物に着弾する。

「なに……」

男が驚き、メルを見ると、メルはもう目の前まで来ていた。

「うわぁ」

慌てて逃げ出すが、メルの方が速かった。メルが拳を振り下ろすと、男の頭が潰れ、血飛沫が舞った。

「ひ、怯むな」

別の男が銃を構え、メルに向かって撃ちまくる。しかし、メルは微動だにしなかった。

「化け物……」

メルに銃弾が効かないと悟ったのか、今度はナイフを抜いて襲いかかる。

「……」

メルは無言のまま、向かってくる男を殴り倒す。

「うぐっ」

男が倒れ込むと、他の男たちも後ずさりする。

「撤退だ」

リーダーらしき人物がそう言うと、メルに背を向けて逃げ出した。

「残念だ」とエルが言った。すると……

――ドゴオォン! 激しい音と共に建物が崩壊し、崩れ落ちた瓦礫が退路を断った。

「これで、逃げられないな」とエルは言って、剣を構えた。



「い、今の爆発……」とメルが呆然とすると、「爆発音だ」と答える者がいた。「まさか……」メルが声の方を見ると、そこに見知った顔の少年が座っていた。「お前……」と声を出すと、「メル少尉か」とその子供、いや少年が立ち上がった。そして、「久しぶりだな……」と言って、微笑んだ。「お、お前は誰だ……」とメルが動揺しながら尋ねると、「俺のこと、忘れちゃった?」と子供が笑うと、「覚えているわけがない……」とメルは苦笑した。

少年の姿に心当たりがあったが、メルはその記憶を否定した。それは……、 それは自分がかつて殺した子供のはずだったからだ。

すると「じゃあ、教えよう」と言い、「俺の名は……アルフォンス・セクター34・ナンバー3。メルの兄貴だよ」と、そう名乗った。

メルの記憶の中で、確かに自分と兄の面影が重なった気がした。

「なぁ、なんで……」とメルが尋ねようとすると、

「今は戦闘中だ」と、アルフォンスが遮って、「おしゃべりはあとだ」と言うと、剣を抜いた。

「さて、やるか」

メルとアルフォンスは睨み合ったまま動かない。

「どうした? かかってこいよ」

「……」

「怖いのか?」

「……」

「おい、なんとか言えよ」

「……」

「チビの頃からずっと一緒だったろ」

「……」

「まあいいさ」

「……」

「最後にもう一度だけ言うぜ」

「一思いに殺すことはできるけど、言い残すことはそれだけかい?メル・リンド」

「いいや、違う」

「僕はお前を絶対に許さない」

「覚悟しろ」

「僕の命に代えてでも殺してやる」

「僕が死ぬときは、お前が先に殺してから死んでやる」

「わかったら、早く来い」

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