魔王を倒したわけではない

「それでどうしろと。魔物の本能まで儂の責任か?自然に手を加えよと?」

俺たちの話しを聞いて、魔王が大きく息を吐き、笑い出す。

「ふむ。相変わらず口下手だな。我が身を振り返れ。だろうが」

俺は返答に窮した。

「お前みたいな奴がどうしたら上手く立ち回れるんだろう」

俺はそう言って呆れた。

「ああ、確かにね」

魔王は腕組みをしながら俺を見た。

「まあ、そんなに心配せんでも儂だって座視してるわけじゃない」

「そ、そうなのか?」

俺の曖昧な返事に魔王は笑った。大宇宙の秩序を乱す程の力はないと言う。

「何か用かと思ってね。………おっと、俺のことまだ疑っていてるのか? これは面白くない」

この人の前だと下手なことが言えなくなる。俺は心苦しくなってそう返した。

魔王は突然、立ち止まると空を見上げた。空気がざわついている。

「――――。何か、来るな……」

そこに現れるものを俺は目の端に捕らえるしかなかった。

すると、魔王がゆっくりと言葉を続けようとする。

「……ああ。確かに、人界の怪物か。何と禍々しい」

魔王は視線をこちらに振り向ける。

「怪物?……お前のことだ、また何か俺に気が行っているのか?」

俺は軽く挑発するつもりで言った。

「……」

魔王は俺を観察するかのように見ており、しばらくして何かを決意したように頷くと声を出した。

「――――。……いいだろう。ならば、貴様ら人間共が俺の命を狙いに来るまでの間、この俺を襲い、俺をから解放してもらおう」

何を言ってやがる。

魔王のセリフに反応した兵士たちが続々と俺の方に群がっている。

魔王を見つめる先には何か光る玉のようなものが浮いている。

この光って、…………あれか。これが……、悪魔?

「……そうですよ、魔王。まだ私が貴方を倒した訳ではありません。この私が貴方の事を認めているのです」

メリダが加勢してくれた。

俺はこの戦いの中で何かの間違いに気が付き、そう言って魔王をたしなめた。

「魔王……、何を……」

彼は潔白でありむしろ俺の疑心暗鬼をやっつけようとしてくれる善人だったのか、という事を理解する前に魔王が言った。

「…………ふん、まあいいだろう。我は魔王、我が名は悪魔の帝王ブラッド・レイン。卑劣な人間に侮辱された。魔物の暴走は我の悪意だという。無礼千万である。ならば貴様らを全て屈服させ、この我が『真の魔王』になる。その前に貴様らを滅ぼす、それが我の使命だ」

この魔族は何故、このセリフを言うことができるのか。

この状況、さっきから魔王の周りには魔軍だけじゃなく、人間の兵士も混じってい様にしか見えない。死んだ目の男が迷彩服を着て機関銃を構えている。

「――――、」

なんか、凄く嫌な感じがする。

ここまできたら俺の気持ち、揺らいでいて。……ああ、そうか。俺は『勇者』になるなんて嫌だったんだな。









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