背に腹は代えられぬ
「キャーっ!」
まず、フェノミナが悲鳴をあげた。軽ファイターの彼女はただでさえ薄着だ。それが愛用の弓もろとも溶けていく。腰まで伸びた自慢の髪もだ。
閃光に浮かび上がる生まれたままのシルエットは何とも艶めかしいが、女の命といわれる髪まで奪ってしまうことに俺は胸が痛んだ。
「うわばかヤメロ!」
強烈な剥奪力が俺の頭上でバスタードソードを粉々に打ち砕く。ガルゼノ恐惶の伏魔殿で俺たち一行が半殺しな目に遭いながら手に入れたお宝だ。
だが、苦労の結晶を台無しにしたのは、ファルコン。お前の傲慢だ。リーダーたるもの、百龍瞬殺の剣を同胞の制裁に使うなど言語道断だ。無くなってしまえばいい。
「ウホッ?!」
お次はカルロスの番だ。ざまあみろ。剛毛ふさふさモッフモフの髭をドワーフから取ったら何が残るというのだ。しかも全身すべすべ。マノンヤの温泉宿に出入りしている格安エスティシャンは【パダッカ】を悪用して原価率をさげているという噂だ。
「どぁあああああ!」
ツルツルというよりトゥルトゥルのツゥキンヘッドを抱えてヌルヌル狼狽える様は最高のながめだ。
そして、俺も例外でない。二百万ゴールド。今回のクエストで稼いだ金貨とアイテムがパァだ。ダンジョンに豪風が吹き荒れ、パーティーを巻き込んで振り出しに戻す。
また最初からやり直しだ。ボロ布一枚に身を包み、素足でスライムを押し潰して詰まったドブのお掃除。そのミッションで身支度を整え、橋の下でうずくまる我らが
俺達はレベルが高いからすぐにパレオス王直属の親衛隊に即決採用されるだろう。
ああ、それにしても裸一貫の心地よさ。緞帳なウィザードローブを脱ぎ捨てて疾風にまたがる、この解放感。癖になる。
てなことを考えていると【パダッカ】の効果が切れた。男女絡み合ったまま、どしんと中央広場に落ちる。あたりは真っ暗だ。
「どこ触ってんのよ!」
フェノミナがファルコンを蹴飛ばしている間に俺はナノジッジョの呪文を唱えた。パーティーを中心に1エリアの視界を不規則に攪乱する。
「ナノジッジョ! ……あれ? おかしいな。魔術点が足りねえか? じゃあ、ウジュハッキン!」
おかしい。ウジュハッキンはレベル1マジック。魔力点1しか消費しない。誰でも使える不可視術で物心ついた時に憶える魔法の一つだ。
「ゲンの馬鹿ッ!」
左ストレートの奇襲が来た。こいつもかなり効くねえ。俺は満天の星を仰ぎながら息絶えた。
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