義妹と付き合うのを諦めたら、何故か不機嫌になった義妹が転入してきたんだけど?! 〜同い年の義妹はまたたく間に学年一の美女になりました〜

雨ノ日玖作

第1話 義妹が同じクラスに転入してきたんだけど?!




 漫画や、ラノベでは実妹が恋愛対象として出てくるものも珍しくない。


 しかし、現実世界ではそれは有り得ない。


 実妹はあくまで実妹で、家族はやはり家族だ。


 血の繋がった相手は、恋愛対象になり得ない。


 相手がいくら可愛いくても、綺麗でも、DNAという人間の奥深くに刻まれたコードが強烈な忌避感でそれを拒む。


 だが、実妹で、、話は別だ。


 それがどんなに小さい頃からの間柄でも、長年、同じ屋根の下で暮らしていた相手でも、全然、恋愛対象に成り得る。むしろそれは男にとって恋愛感情の防波堤ではなく、促進剤にしかなりえない。禁断の恋愛はいつだって人を惑わす。

 

 ましてそれが同じ学年にいたら学年トップの美少女になれるほどの美人なら、なおさらだ。


「ねぇねぇ、何見てるの~」


「ねぇ、こっち向いてよ~~」


 観葉植物が置かれた乳白色のリビングにいたのは眩いばかりの美少女だった。


 今まさにTVに映る芸能人と比べても遜色のない黒髪ショートカットの美少女がそこにいるのである。

 

 ショートパンツからすらりと伸びる脚がとても眩しい。


 やはり好みの少女のあられもない姿は目に毒だった。


「ねぇ、何読んでるの?」

「ネット記事。覗いてくんじゃねーよ」

「良いじゃん、けち~~~!」

 

 身体を伸ばす由紀をあしらうと、由紀はぷく~っと頬を膨らませた。

 

 だけどすぐに悪い事考えたというイタズラっぽい笑みを浮かべ


「あ、これ一口もーらい!」

「あ、おい!! 俺のアイスだろ!! 食ってんじゃねぇ!」

 

 惣太が食べかけで止めていたアイスをスプーンでガッツリ掻っ攫っていく。


 大きな欠片をそのまま口に放り込み「惣太のを横取りして食べるのが一番美味しい!」と頬に手を当てご満悦だ。


 いやそのスプーン俺のだけど……。


 間接キスなどお構いなしな、無頓着なところが余計に色々な妄想を掻き立てるのだ。


「たく、勝手に食ってんじゃねーぞ」

「油断する惣太が悪い。弱肉強食」

「いつからリビングはサバンナになったんだよ」


 満面の笑みでアイスを堪能する由紀に不満を漏らしつつ、返ってきたステンレススプーンを使って良いものか思案する。唾液が付いているのだが……。


 しかし、この義妹に恋愛感情を抱くことを惣太は許されない。


 なぜなら――


 惣太は自身が身を沈めるソファの背後を一瞥した。


「あなた~」

「なんだいハニー」


 そこでは今にもキスしそうなラブラブな熟女とオッサンがいる。


 再婚した母弘子と、相手の祐作だ。


 なんとこの二人、再婚して十年近い月日が経つというのにまだ新婚さんのように熱々な関係なのだ。


 晩酌をしている母と祐作は良い感じに仕上がっていて、今にも二階の寝室に上がって行ってしまいそうだ。

 

 両親がこのような調子なものだから、この家には恋愛のオーラ、幸せなオーラがそこかしこに落ちていて、「ねぇねぇ、ていうかこれ見てよ惣太!!」やたら距離感の近い義妹・由紀も惣太に好意を持っているように見えてしまうのだが、そんな訳無いのだ。

 

 だって、惣太と由紀は『家族』なのだから。


 男の惣太は家族であり義妹である由紀に欲情するが、女はそんなわけ無いと思うのだ。


 由紀があまりにも綺麗だから男の惣太は欲情するが、惣太はそこまでかっこ良くもないので、由紀が恋愛感情を抱くわけが無いと思うのだ。


 だから、由紀に恋愛感情を抱いてはならないのだ。


 もし自分が由紀に恋情を抱いていると知れたらどうなるだろうか。


「も~よしてよ~ゆうったら〜」

「なんでだい、良いじゃないか弘子〜」


 背後から発情した母と祐作の声が聞こえて来る。


 一瞬でおしまいだ。この甘い環境は一瞬で崩れ去る。離婚した直後、弘子がどれだけ苦労したかを、惣太ははっきり覚えている。


 それだから由紀に手を出すのはあってはならないのだ。


 それは、このうたかたのような家族を弾き消す、「ねぇ惣太聞いてる~?」、由紀が今浮かべている笑みを台無しにする行為に他ならないのだから。


「何~見つめちゃって~~どうしたどうした~~、ね~~どうしたんだろうね~弘子さ~ん」


 関係の崩壊を空想し由紀の顔をマジマジと見つめると、由紀は心底嬉しそうに笑った。


 話を振られた母も「もうやめてよ惣太ったら~」と、何か知ったような顔で笑みを浮かべている。


 やはり、由紀に恋情を抱いてはならない。


 仲睦まじい由紀と弘子の関係を見せつけられ、一層その想いが強くなる。きつくきつくその想いが堅結ばれる。結び目が、もう殆ど見えないほどに。


 やはり、自分は他に行くしかない。


「ねぇねぇそういえばさ、前に惣太言ってたじゃーん。私と同じ学校でも悪くないとかなんとか」

「あ、あぁ、うん、そんな話もしたっ……けっ?」


 そういえばいつだか学園青春もののアニメや映画をしこたま見せられた後、尋問のように朝一突撃され、起き抜けにそんな言葉を強奪された気がする。


「うん、したした」

「そ、そうなんだ……」

「でさ、その話なんだけどさ?」

「うん」


 とっておきの宝物でも見せるように顔を綻ばせる由紀。


 だがその時惣太のスマートホンが震えた。画面表示されたのは今惣太が熱心に連絡を取り合っている相手の名前である。


 その名前を見て、惣太は飛び起きた。


 そう、由紀と恋愛できないと決断した惣太は他へ行くことにしたのだ。


 その相手である松﨑優菜さんからの連絡が来たのだ。


 返信の文を打ち込みながら、惣太は思う。 


 ――確かに惣太は由紀のことが好きだ。


 しかし仕方ないではないか、と。

 

 由紀のことが好きだが付き合うことも、手を出そうと『すること』も許されないのだから。


 そう誰に対してでもなく言い訳をしていると、


「え、その女誰?」


 由紀の棘のある声が差し込まれた。


「え、な、なに?」

「誰からのメッセージなの、それ?」

 

 咎めるような由紀の声。ヒリヒリした圧。


 一瞬にして処刑場に変貌したリビング。


「だ、誰って……」

「惣太が、私以外の女と連絡取り合うなんて珍しいじゃん。で、ダレ?」

 

 ヒッ


 そのあまりの迫力に息を飲んだ。


 由紀のまん丸の瞳が惣太を覗き込んでいた。


 こういう時の由紀は、心底恐ろしい。


「ゆ、優菜、さん……」


 ガクガクと震える声で何とか白状すると、由紀は「へ~優菜さん……。ふ~~ん」とその名前をゆっくりと口の中で転がした。そして――


「フン!! もう知らない!! 惣太の馬鹿!!」と、ガタンと大きな音を立ててソファから立ち上がったのだ。


「は、なんなんだよ?!?! 急に馬鹿って何なんだよ!!!」

「フン、知らない! プイ!!!」


 何なんだよめちゃくちゃ怒ってんじゃん、と思ったが言う暇がない。


 そのまま由紀は「馬鹿!」とか「鈍感!!」とか、言いたい放題言うとバタバタバタと音を立てて階段を上がって行ってしまった。


 な、何だったんだ……とキツネにつままれたように階段の方を見ていると「全く惣太は初心なんだから~」と何か知っている風の母親は楽しそうだ。


「ハハ、由紀の奴も素直じゃないから」と祐作も何か知っている風だ。


「ふん」


 その何もかも知っているような余裕たっぷりの態度が腹立たしい。


 知っていることがあるなら教えろよと言外に示す鼻息を一つ吐いていると「で、先ほど由紀が言いかけていた件だがね惣太くん」と祐作がグラス片手に話し出した。


「あなた、言わない方が面白いわよ」

「いや、言わないと後に引く。惣太くん、今惣太くんと由紀は同じ高校二年生だけど、違う高校に通っているね」

「は、まぁ……」

「で、由紀なんだけど、来週から惣太くんと同じ高校に通うことになったから」

「……」



「ハァァァァァァァァァァァァァァァアァアアアア?!?!?!?!!」

 

 聞くや否や惣太は由紀の後を追い階段を駆け上がった。


 確かに由紀と惣太は別々の高校に通っている。由紀と同じ私立に通っても良かったが、当時の惣太が断固拒否したのだ。


 由紀ほどの美人と同居していることが知れたら、学校ではただでは済まないからだ。小学校も中学校も別々だったが、同じ学校に通ったらどうなるかなど火を見るより明らかだった。

 

 正直、由紀と同じ高校に通いたいという気持ちはある。だがリスク回避のためにも惣太の理性が引き留めたのだ。だというのに――、来るだなんて!!


 再三に渡る由紀の青春ラブコメ視聴攻勢により由紀と同じ高校に通う、和気あいあいとした高校生活も良いかも、とは思ってはいた。


 だがそれが現実のものとなるなら話は別だ。


「おい由紀!! 聞いたぞ!!! 明日から俺の高校に来るって?!?!」


 息せき切って階段を駆け上がり廊下の突き当りにある由紀の部屋のドアを叩くと、眉を吊り上げる由紀が出てきた。


「そうだよ!! 何、悪いっての?!」

「何でだよ!」

「良いじゃん!! 私立はお金かかるし、お父さん仕事辞めちゃったんだから仕方ないでしょ!」

「いや確かにそうだが!!」


 確かに祐作はついこの前仕事を首になっていた。だけどだからといって惣太の通う都立高に転入する必然性はない。


「それに惣太と同じ高校に通ってみたかったの!! 同じ高校で青春過ごしてみたかったの!!」

「そんな下らない理由で?!」

「はーーー!!? 下らない!? 何言ってんの!? 惣太私のこと好きじゃないの?!」

「す、好き?!」


 由紀と言い合ううちにいつの間にか究極の二択を迫られていた。二つの一つ、ミスったら即、死を意味する。デッドオアアライブな問いに惣太の声が裏返る。


「好きでしょ?! 私のこと?!」


 だが由紀は一息いれる暇を許さない。


「す、好きだけど、それとこれとは話が違うだろ!! 

「なら良いじゃん!!! もう! これでこの話は終わり!!」


 家族という意味で、と言外に込めてしどろもどろ答えると、バタンと目の前でドアを閉められてしまった。


(え、ええええええええええ~~~~~~~~~!!!!!)


 脳内で惣太は絶叫した。


(えええええええええええ?!)


 と、いうわけで翌朝、状況整理が追い付かないまま、チュンチュンと雀が鳴く通学路を歩き惣太は自席に着き、違うクラスならセーフ違うクラスならセーフ、と念仏のように自分に言い聞かせていたのだが、そこでハッとあることに気が付いた。


 そういえば由紀も学校は違えど『理系選択』なのだ。


 ということはつまり、既に文理でクラス分けが行われているこの学校では――、とその条件から導き出される事実に絶望した瞬間、由紀から『同じ理系ってことで、惣太と同じクラス選んでおいたから!(*^^*)』という案の定の連絡が来て、ベルが鳴りガラッとドアが開いた。


 担任に連れて来られたのは、この世のものとは思えない美少女だった。


 神が作りたもうたかのような絶世の美少女だった。


 よく見知った、なんなら昨日も一緒に居た美少女だった。


 それは――


「初めまして、中川由紀です!!」

「おいおい見ろよ!!」

「すっげー美少女だぁーーーー!!!」


(いやああああああああああああああああああああ!!!)


 ――何を隠そう義妹の由紀であり、惣太は絶望するのだった。




 こうして惣太の高校二年生の青春は、本格的に始まったのだった。




――――――


この度は本作をお読み頂きありがとうございます。

今後とも物語を盛り上げていこうと思っていますので追って頂けると幸いです。


また、本作はカクヨムコンに参加中です!!


読者選考を抜けるためにも、もし気に入っていただけたらフォローや下の☆欄から☆を入れて頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします!

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