青い鳥
二季てんきゅう
青い鳥
青い鳥が羽ばたいて消えた。
目の前で飛び立った彼女を僕はただ見ていることしかできなかった。胸が軋む。飛び立った彼女をどうして引き止められなかったのだろう。手段など、いくらでもあっただろう。ああ、分かっている。分かっているとも。僕のもとから離れた方が彼女にとっては幸せだってことを。けれども、頭では分かっていても、心はまだ彼女を思い続けている。この気持ちが収まるまで、君との思い出に浸っても許されるだろうか。
彼女との初めての出会いは、昼でも光を通さないような暗がりだった。知り合いに誘われて訪れたそこで、輝く彼女に出会った。雷に打たれたようだった。薄暗くて人も疎らなそんな場所で一際輝く彼女。澄んだ声に、輝く笑顔に僕はその場から動くことができなかった。彼女のことをもっと知りたいと思ったんだ。
彼女はとても愛らしい人だった。あの暗がりから抜け出した彼女は、同じような子達と楽しそうに遊んでいた。海や山など様々な所に向かう彼女を、その色々な姿を見せてくれる彼女に僕はさらに引き込まれていく。ああ、もっと……もっと彼女のそばにいきたい。
最近、彼女はとても怯えている。時折あたりを見渡し、突然駆けだすこともあった。なにがあったのだろう。探ってみると、どうやら不審人物に付き纏われているらしい。なんということだ。輝く彼女の笑顔を曇らせるような奴がいるとは、許せない。僕はさらに探る。すると、とある男を見つけた。丁度、彼女が怯えだした時期から、頻繁に彼女と会っている男だ。原因はこの男に違いない。男に気づかれると彼女に危害が加わるかもしれないから、男のいない隙をついて、僕は彼女にそのことを伝えた。『逃げて、その男は危険だ』と。
僕の警告空しく、彼女は男と空の向こうへ飛び立ってしまった。思い返してみて思うのだ。あの輝く笑顔の彼女が、その曇った表情のまま、原因の男と一緒になって、それは果たして幸せなのだろうか。いいや、幸せなはずがない。彼女には幸せになってもらいたい。やはり、彼女を助け出そう。たとえ周りが敵だらけだろうと、僕は彼女を救ってみせるのだ。
彼女を見つけた。長く時間がかかってしまった。遠い異国の地にいた彼女のもとへようやくたどり着けた。高鳴る鼓動と息切れを抑えながら、僕は彼女のいる部屋の扉を開ける。そこにいた彼女は、良く似合う青いワンピースを身に纏っていた。僕を見てあの頃と違うけれど、やはり綺麗な声を紡ぐ彼女。僕はそんな彼女にそっと近づき、手を差し伸べて言ったのだ。
「君を幸せにするのは僕なんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます