皐月に梅雨が来るごとく (「6年1組一年勝負」より)
snowdrop
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「楽しみにしてたのに雨だなんて……憂鬱だなぁ」
五月の連休があけたと思ったら、唐突に梅雨がはじまった。
今年は過去二番目の早さの梅雨入りだと、気象予報士も驚いていた。
おかげで、予定されていた運動会も延期。
すでに遠足が中止になっているため、他の学年の子達も不満が溜まっているに違いない。
そもそも順延をしても、運動会が開催される保証はない。
おまけに、連休前から新型コロナウイルス蔓延により緊急事態宣言が出ている。運動会開催を危ぶむ声が親御さんたちからあがっている、という話も耳にしていた。
大人からすれば、中止するにはもってこいのタイミングに違いない。
「あーあ、つまんねぇな」
陽介の後ろの席に座っている
「オリンピックはよくて、運動会は駄目ってどういうことだよ」
陽介は、マスクがずれていないか確かめながら振り返る。
「怜雄くん、まだ中止と決まったわけじゃないよ」
「予定は未定で確定じゃないっていっても、ほとんど中止が決定されたようなもんだろ。この分だと、俺達の修学旅行まで中止になりかねないっ」
「まさか……とは、言えない状況だもんね」
やれやれ、と陽介は息を吐いた。
「中国武漢市からはじまった新型コロナ。あれから一年以上経つのに、終わるどころか長引いてるもんな」
「そうだね。すっかり世界は変わっちゃった」
集まってしゃべったり食事したりすると感染するかもしれない。目に見えない恐怖に子供たちだけでなく大人たちも怯え、これまで以上に手洗いやマスクをすることになった。
保育園や幼稚園、小中高の運動会をはじめ、様々な競技の中止や人数制限が求められている。そんな状況でも昨年、全体の七割の小学校が人数制限や規模縮小などの取り組みをして、運動会を開催したという。
今年はどうなるのだろう、と思っていたところの雨天延期。
怜雄でなくともぼやきたくなる。
「こればっかりは、どうしようもないよ」
「そんな事ないだろ。俺たちは二十一世紀に生きてるんだぜ。あと百年もしないうちにドラえもんが誕生するだろ。なんでもかなえてくれる四次元ポケットが実現する世界が、もうすぐ目の前だっていうのに」
怜雄は、両手の拳をぐっと握りしめた。
「四次元ポケットは何でも入るポケットであって、ひみつ道具がないと意味がないよ」
「そうか……なるほど。でも、百年しないうちにひみつ道具ができるじゃないか。あとちょっとだっていうのに」
「あの~怜雄くん。真面目に答えると、ドラえもんは漫画だから。そんなこといったら、アトムやコナン、マクロスにエヴァンゲリオンはどうなるの? 実在してないよ」
「アニメと現実を一緒にするなよ」
恥ずかしいやつだな、という顔で怜雄は陽介を見てきた。
たまりかねて、「ドラえもんもアニメだよ」と陽介は言い返す。
「改めて言われんでもそれくらい俺でもわかってるって。あれこれ言いやがって、いちいちうるさいんだよ、お前は」
フンッ、と怜雄は鼻を吹いて顔を背けた。
言い出したのは怜雄くんなのに、と陽介はぼやきたかった。
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