6 「助かった!」と思ったのに……?

 心の中で呟いたつもりだったが、「ダークエルフ」と思わず声に出てしまっていた。


「あ、ごめんなさい……。いやだわ、私、失礼な言い方をしたわ」

「いいんだよ、そんなの、慣れっこさ。この国ではね」

「ごめんなさい、悪意があるわけじゃないの。魔法を使わないのかしら、と思っただけなのよ。さっき、石礫いしつぶてを投げて、あの男を追い払ってくれたでしょう。ダークエルフなら、攻撃魔法は得意中の得意だと思ったから」


 ダークエルフのことを、一般的なエルフに比べ、攻撃的で好戦的な存在だと描くゲームやファンタジー作品も存在する。

 しかし、『聖なる乙女と光の騎士のマリアージュ』の中では、エルフとダークエルフの描かれ方の間にさほど大きな差はない。

 エルフに比べ、ダークエルフの方が闇属性の攻撃魔法を得意とする者が多いという細かな設定の違いがあるにはあるが、それはストーリーの大筋にはほとんど関与しない。どちらも、創造主ファシシュを信じる聖カトミアル王国の人間たちから見れば、異端であることに変わりはないのだ。

 エルフもダークエルフも、魔王ヴィネ様を慕う異種族の中のひとつとして、設定されている。

 いちプレイヤーとしてヴァレリーを操作した時には、どちらも魔王と共に、ヒロインやヒーローに刃向かって来る敵モブキャラなのである。

 エルフにせよ、ダークエルフにせよ、ヴィネ様側の存在。

 つまり、今の私にとっては、味方として頼ってもよい存在だと言える。


「あたしは、ダークエルフと言っても、半分は人間なんだ。父さんがダークエルフで、母さんが人間。だから、生粋のダークエルフに比べれば、魔力は劣るかもしれないね」


 ここまで精神的に余裕が無かったため、私はカーラのステータス画面を確認していなかった。

 カーラの言葉を聞いて、あらためて確認をしてみると、確かに、種族を示す欄には、「人間+ダークエルフ」と書かれていた。

 MPは12だ。

 通常、この世界では、人間よりもエルフやダークエルフの種族の者の方が、多くの魔力を有している。

 聖女という設定を持つとは言え、人間であるヴァレリーのMPが15だったのに比べれば、ダークエルフとしては少なめのMPしか持っていないというわけだ。

 普通の人間と違って魔力は使えるようだが、本人の言うように、一般的なダークエルフほど、魔術が得意というわけでないようだ。

 無尽蔵に魔法を使えるわけではないから、先ほどは石礫で攻撃したということもあるのだろう。


「それに、この国では人間以外の種族は、差別されるんだよ。魔法は使えるけど……、使えば気味悪がられるからね。極力使わないようにしているのさ。でも……」


 カーラは、話を途中で切ると、「チッ」と舌打ちをする。


「──と、今度は魔法を使わないなんて、悠長なことは、言ってられないようだね。先に逃げな! あそこの、家の軒下まで走っておくれ!」

「えっ?」

「魔物だよ! 魔物が来たんだっ!!」

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