偽装彼女の存在理由

「藪蛇というか棚から牡丹餅というか雨降って地固まるというか…」

これでよかったのか、と吉田健也は事件を総括していた。時刻は深夜2時。偽装ストーカー事件の計画段階で本物が現れたのだから怪我の功名に感謝すべきか。美咲と仁朗の交際に偽装の名分はそぐわない。二人は本当の愛を育んでいる。学校側も男女別授業が共学以上の安全性を担保できるか疑問視する教師が増えつつある。女子の同性愛に部外者のストーキング。思春期の問題は管理教育だけで解決するのは難しい。そして健也自身も週末彼女デリバリーの存在意義を見失いつつあった。偽装工作や密会を用いてまで男女の恋愛に第三者が介入すべきなのか。美咲と仁朗はレンタル恋人の枠を飛び越えている。


「美咲が山田尚子の曲をもっと愛してほしいって言ってる」

吉田健也は仁朗に妹の要望を伝えた。

「彼女がそう言うなら」と言い、山田はスマホの音楽を聴く事にした。

(俺と会った時、こんなこと言わなかったがな)


ワンルームマンションいっぱいに山田尚子の「食、見る?NO!君HEY!」が流れている。歌詞の主人公は十代の少女だ。自分を食べるのかそれとも遠くから愛でるだけか、片思いの彼氏に問い、いいや、自分から彼氏にアタックするというストーリーだ。

繰り返し聞いているうちに美咲は大切なことに気づいた。

そして彼女は山田への感謝のこころを思い出した。


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