第7話
金の為だったか、誰かの為だったか、一体何のために軍に入ったかは覚えていないが私は特殊な組織に編入された。国が公に行動できない時などには重宝され、血生臭いなど生ぬるい表現の任務を数十、数百とこなす事となった。
組織と言われていたが実際には孤独な集団であった。基本は単独で任務をこなし、また次の任務へ駆り出される。休暇はない。誇りを持って立ち向かった人は誉め称えるべきだろう。日々衰弱していく精神、崩壊して行く心情、繋がりを持たぬ友愛、どれをかも常人に定まるようなものではない。操り人形となっていなければどれ程幸せだっただろうか、仲間に見捨てられなければどれ程、如何に心を育んでいたのか、私にはもう敵わない。
あれは一瞬の任務といえる。
巨大な宇宙ステーションでは何百万と人が箱詰に暮らして経済を回す作業に従事し刹那の楽しみを甘受していた。ワルワンと名付けられたステーションで私はある女に接触する手筈となっていた。任務は殺害である。
桟橋にドッキングした小型宇宙船から検問を難なく通り抜け、狭いステーションに巨大な邸宅を構える裕福な人々の住む層から、段々と手取りの少ない人々の暮らすところへと向かう。活気に溢れる市場の一本の路地に入る、そこにも生気に激しく燃やす人々が酒瓶片手に破顔を見せびらかしていた。だが、さらに奥へ向かうと閑古鳥が鳴き始めた。
遂に周りに誰もいなくなるような最奥までくると寂れたネオンを明暗させる店がある。宇宙では珍しい木戸を開けるとバーテンダーすら居ないバーがある。蝋燭を灯す机が一つ、そこに女はいた。
「貴方が刺客ってところかしらね」
女は余裕のある声つきで言った。女の名前はネーハ・サフ・ガルシア、革命軍を率いる赤いカナリアの頂点に立つものである。幾多の刺客を跳ね除け生き残り革命を白日の下に晒そうとしている。
「今まで最高よ、貴方は小細工なしにここに来たのね」
「仕方は自由だ、結果しか問われん」
「あら、つまらない。過程こそ重要よ」
椅子に座り元から置いてある透明な緑のカクテルを一口飲む。毒が入れられている可能性があったが私には入っていないと勝手に湧いた自信があった。笑われてしまうだろうが、私にはあのカクテルの味がわからなかった、相当強いものであったのだろうが。
「さて、こちらの要件は一つだ。君の身柄と革命軍の解体だ」
「無理なのは分かっているでしょう?貴方も元々はソレを望んだ人のはずよ」
「否定するなら取れる手段は限られてくる」
彼女は言葉を投下した。
「中枢への攻撃用意は整ったわ」
この女は早速切り札を切ってきたと思えた、しかし、その瞳はまだ奥に霧がかかっていた。奥の手が隠されている。革命軍が今までしてきた事を思い起こすと、末端組織への攻撃、秘密通商路の破壊、要人の暗殺、用意周到に組み込まれた計画に国の組織が入り込む隙はなかった。情報戦では負け続きだったわけだ。
「ソレが成功して、何を望む」
「解放よ、旧世界の支配者達には椅子を降りてもらう」
支配者とは銀河を裏から牛耳る資本家達のことであった。旧大戦では資本家と時の銀河連邦が利権の巡り合いで、銀河全体を巻き込み何十年と戦争を起こした。勝者は資本家、金な亡者だった。世界は一変し貧富の差は火を見るより明らかになり、銀河連邦は解体、単一の国家となった隙に資本力で国を支配した。
「厳しいな」
「貴方が寄越されるか冷や冷やしたわ」
ふぅと溜息をついた女の顔は曇って足が震えている。先程の狩人らしさはどこにも無い、演技なのかもしれなかった。左手をテーブルの中心へ置く、下手な女優の仕草は恐ろしいほど冷淡だ。
「でも残念、人形さんはお家に帰ってもらわないと」
「そうか……ところで、星を数えた時はあるか?」
美貌が酷く濁り歪む。
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