第6話
思えばずいぶん長く登り続けた。真ん中の隙間から下を覗くと遥か先に霞がみえる。逆に上を見上げると天井が見えた。つまり、もう頂上はすぐそこである、今までに比べればだが。
あの時扉に入って以来、階段に扉が出現していない。人の記憶にある一場面を再現するのがこのビルの力なのだろうが、山の中腹の隠れ家の扉や中佐が居た部屋の扉も出てきてはいない。一体どういう条件なのか。
と、考えていると階段の床が抜けた。
「っ!」
甘くないということか。
「おい!」
咄嗟に手を掴まれた。人がいたような気がしたがただの幻覚で、飛び出した金属棒に服の袖が引っかかっただけだった。階段の踊り場に戻ると天井が遠くなっている。口に水を含み登り始める。
軍隊に属していた時期が人生でニ番目に充実していたに違いない。もう朧げな記憶では過去を明確に振り返ることは叶わず、ビルに登る理由すら思い出せない。悲しくはない、けれど、少し、遠い昔を思い出したい。
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