曲の小説化。

BIG PLUM

1曲目

 今日の夕陽は眩しく見えた。決して光度が高いわけではなく、直視しても目を閉じる必要は無かった。だけれども見たくなかった。いやに清々しく紅い光は、電車の窓の奥にいる僕を嘲笑うかの様に照らしていた。


 「何をそんなに急いでいるんだい?」


 窓の外では街は走り、ビルは目の前を横切って行く。遠くの空に浮かぶ水蒸気の塊は、まるでゆっくりと、ゆっくりと泳いでいるようだった。更に遠くに浮かんでいる傾いた太陽はまるで動いていなかった。その事に気付き、僕は疑問を抱いた。


 「俺は今、何をしているのだろうか。」



 会社勤めの僕の生活は、全くもってのアベレージであり日記でも書こうものなら、初日以降は「踊り字」で十分な毎日であった。今日も踊り字の一部に過ぎないもので、いつもと同じ様に電車に揺られ帰路についていた。きっと家についてからの光景は昨日と同じもので、明日もまた同じ光景が広がるのだろうと思った。それは予想ではなく、確信だった。代わり映えのないこの光景が、毎日の内に多少の変化はあるものの、根底は変わらなかった。

 

 ある日、突発的な行動を取った。取りたかった。けれど取れなかった。


 踊り字の毎日に嫌気が指し、一度に有給を全部使い、旅行にでも行こうとした。ただ単純に変化が欲しかった。もしくは、フラストレーションが溜まっていたのかもしれない。しかし、その衝動は上司の電話番号打ち切り、コールボタンを押そうとするところで収まった。もし今、有給を一度に使い旅行にでも行こうものならどうなるだろうか?恐らく同僚から冷たい目でみられ、置いていかれるのではないだろうか?仕事にしかり色々だ。そんな事が頭をよぎったものだから、結局何もできずに終わった。集団心理?そんなもの知った所で何か変えれるようなものではない─

 それからというものは、踊り字の毎日を過ごしてきた。今日までに、前と似た様な衝動に何度も駆られたが、一時的なものだと自分を騙し続けてきた。そうやって過ごしていれば、また同じ様な朝が訪れ、同じ様な風に吹かれ、同じ様な毎日を過ごせるのだ。

 しかし、これは僕の頼んだ朝でもなければ風でもなかった─


 今も紅い光を放つ傾いた太陽は、僕を照らし続けていた。無気力感が優しく包み込む。結局今日も踊り字で終わるのだろうか。そう考えると怒りが沸いてきた。無力な自分に対してだ。

 そして僕は電車を降りた。家まではまだ数駅先だった。けれども電車を乗り続けては居られなかった。駅を出て家に向かい歩き始めた。


 深呼吸をする。植物から発せられる青々しい匂い。乾いた土の匂い。温かい空気。それ等は僕の目を覚した。歩いて帰ろう。それは踊り字の日々に対す、るささやかな抵抗である。





この作品のテーマ

「歩いて帰ろう」

 斉藤和義


以下歌詞

 


走る街を見下ろして

のんびり雲が泳いでく

誰にも言えないことは

どうすりゃいいの?

おしえて


急ぐ人にあやつられ

右も左も同じ顔

寄り道なんかしてたら

置いてかれるよ

すぐに


嘘でごまかして

過ごしてしまえば

たのみもしないのに

同じ様な朝が来る


走る街を見下ろして

のんびり雲が泳永いでく

だから歩いて帰ろう

今日は歩いて帰ろう


嘘でごまかして

過ごしてしまえば

たのみもしないのに

同じ様な風が吹く


急ぐ人にあやつられ

言いたい事は胸の中

寄り道なんかしてたら

置いてかれるよ

いつも

走る街を見下ろして

のんびり雲が泳永いでく

僕は歩いて帰ろう

今日は歩いて帰ろう


提供元:Musixmatch


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