●聖十戒大僧正は降臨すれども統治せず

センター長の業務は新人研修から機器トラブルまで多岐に渡る。しかし天文学的な作業量を随時かつ横断するなど不可能。当然ながら中間管理職が要る。


「今度は何なの?」


回転灯が山吹翠を照らす。オークを諫めた後、遅いランチを温め直した矢先にこれだ。「兎に角来てください~」


甲高い涙声。


母子世帯向の相談窓口は五時から遅番の男性スタッフが詰める。前職はもめ事処理に長けた冒険者組合や酒場の面々だ。栗里栗鼠くりさとりすはなぜ残業しているのだろう。


壁のバスタードソードを外して一目散に非常階段を下りる。フロアは阿鼻叫喚地獄だった。


泣きじゃくる栗鼠を落ち着かせて現任者から事情聴取する。


「だって終んないんですよぅ」


聞けば未決済の書類が崩壊したという。「フロア長はどうしたの。トイレ?」


男子社員に捜索させ本人の宝珠にも呪符を送る。


聖十戒せくろすさんなら帰りましたよ。ほれ直帰って」


あろうことか白板のインキが剝げかかっている。翠が真っ赤になった。


「ちょちょ直帰ですってぇ?」

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