農婦令嬢ミモザの御屋敷事情
水原麻以
ミモザとハーピー
村娘のミモザ・ブラウン・ハーツクライは16歳の誕生日に記憶を取り戻した。自分の正体と出自の理由を悟った瞬間から怒涛のシンデレラストーリーが始まる。「皇帝の妾になってはならない。どんな理由があろうと純潔を貫け」
没落した元豪農に代々伝わる謎の家訓。そんな機会は二度と訪れまいと曾祖父達は笑っていたのだが夜の嵐と一匹のハーピーが禁を破った。「私はエレナ。ねぇ、ミモザ、貴女は令嬢で英雄なの。ここにいるべきじゃない。死ぬわよ」
ハーピーの説得に応じず高を括っていると火矢と石つぶてが投げ込まれた。爆発炎上する我が家。
村人の山狩りからどうにか逃れた二人に待つ運命は誰も知らない。賽の目は神の管轄外だ。
「ミモザを私の伴侶にしてくれないかと言われているんだけど・・・。どうも私よりもお父上に強いプレッシャーを感じるの。こんな時どうすればいい?」
男勝りのリンダが加勢してくれてる。持つべきものは友だ。前世記憶の復活もハーピーの来訪も大人は耳を傾けない。幼馴染だけがミモザを護ってくれる。
「貴女、そんな縁談を進めてたの? 父さんも酷いわ」
水面下の密約にミモザは憤慨した。何でも秘密を共有しようと誓い合った仲のはずだ。
「私が言ったんじゃない。貴女と結婚できるかどうかの、両親の目が気がかりでね、しかも貴方の事を調べていないはず。ああっ、もう、こんな話してる場合じゃない。私に代わってくれるかい?」
そう言ってミモザと一緒に村人達との戦闘を続ける。
村八分の域を超えた攻撃は激しく、とうとう火矢まで飛び出した。ミモザもリンダもひとかどの農婦らしく魔法の心得はあるが野菜泥棒を追い払う程度だ。
一方、村の男たちといえば領主の都合で何度か兵役を務めており腕っぷしも魔力も強い。か弱い娘を容赦なく追いつめる。ミモザの魔女スキルは水属性だ。灌漑に使っている。火矢をことごとく撃墜するものの焼け石に水だ。
「あああ、やっぱ私が殺るわ」
リンダがスカートのポケットから魔導書を取り出し使える魔法はないかと繰る。
そんな時「ハーピーと違う」と呟く少女の声が響き渡ってきた。
裏の屋敷に住むジェジカだ。エレナを拾ったらしい。姿が見えないと思ったらいつの間にか撃墜されていた。衣服はぼろぼろに焼け焦げぐったりしている。
「ジェシカちゃん?!」
ミモザは礼も忘れてエレナを抱きかかえる。
「ごめんね。ミモザ。この子と内緒で付き合ってた。恋愛相談に乗ってくれたりいっぱいいっぱいしてもらった。けど、
小妖精や温厚な魔物を飼う習慣は数少ない娯楽だ。村娘たちは世話をする
寿命以外の治療は出来る。それなのにエレナは普通のハーピーとは違うと言い張る。
「リンダ、どうにかならないの?」
ミモザは遺骸を抱きしめて涙声で回復呪文を唱え始めた。
「貸して! 私が悪いの」
少女がエレナを奪った。
「もう手遅れよ、ジェシカ。でもハーピーは私の力で復活させれる。ミモザ、この小人(ハーピー)の正体を突き止めて、その上で、貴女は私の妻になれば良い」
リンダはピシャリと言ったう
「・・・・・」
「ミモザ、私が悪いの」
少女は小さな手で涙を掬(すく)う。
悪戦苦闘の一夜をリンダの魔力だけでどうにか乗り切った。生き延びた少女たちは山向こうの荘園に向かった。教養のある有力者に事情を話せば村人を説得できるとミモザが主張したのだ。
ジェシカはジェシカで、今すぐに、アロンソ伯爵の御屋敷に住むある女の子に会いたいと願ったのだ。治癒魔導士をめざす文通サークルがあり、そこで知りあった。エレナを助ける力を借りたい。
だが、あの女の子は貴族の娘でありながら屋敷の地下で暮らしている事が発覚する。
「私は知ってしまったの。それで愕然としたわ。私があの人と結婚出来るのは今ではなく、この村に住む貴族の娘じゃなかった事、彼女は家を出て、私の前から姿を消した事」
ジェシカは思いの丈をまだ見ぬアロンソ伯爵令嬢にぶつけた。
「ミモザ、貴女の父親が知るはずもないのに私に頼んで来たんだ。あの人が貴女を気に入ってると思うから」、と激白するリンダ。
そこには、あの人の父親の血を継いでいるミモザがいた。
今やミモザは御屋敷に住む伯爵の娘となり、貴族の娘である由、それもあの人の異母姉妹であるという真相は村人の誰にも知られてはいない。
「あの人の両親はいつも言ってたわ。お前は伯爵家の長女なのにメソメソして。こんなのアロンソ家の女の子じゃないって。
伯爵夫妻はリベラルだ。豪農も商家も一定以上の身分は平等に扱う。自分の名前がミモザの口から紹介されていることにリンダは顔を赤らめた。
ミモザがアロンソ家の家庭教師として出入りしている事はリンダも知っている。異界の令嬢であった前世を抱えたまま御屋敷の娘たちと難しい立ち位置もあの人の顔に大きなあざがある事も。
「・・・・・それでも私が選んだ相手なんですもの・・・」
リンダはアロンソ家の懐深さと縁談を進める父親の強引さに負けてミモザを運命の相手だと次第に思い始めていた。
「こうなることがわかって放置していたのね!そりゃ私も今では伯爵令嬢よ。大地主の娘である貴方と釣り合いがとれる、でも」
自己完結型のミモザは納得できない。
「お父上も貴女を気に入っているのは知ってるでしょう。なのに・・・」
「・・・・なんで私がそんな事したいと思うの?」
「・・・・・・それは」
リンダにして思えば、自分たちの関係だけでどうこうできる距離より大きく隔たってしまった。”しかもよりによって、あの人にとって私は・・・・・・”
「ミモザ!」
そう声をかけたのは、あの人の妹だった。その妹はミモザと同じくらいの年で、リンダより歳が近い。それでも、あの人の妹はミモザと違い、あの人を慕っていたので、リンダは安心してミモザとの話を聞こうとした。
すると、そこへアロンソ三姉妹の次女があらわれた。
「妹がミモザさんをお慕いしているのと、貴女がミモザさんを好きだからという理由を聞かれたんですよ・・・。私の前では妹、貴女に話しかけようとするけど、最近は貴女の方が話してくるから、困った事があるんだそう・・・。上の姉が家を出てからは、いつもミモザさんに相談してるんだ・・・」
妹さんは不安そうな表情でミモザと話している。
「・・・・・・。私は、貴女と違うお付き合いの方との間に結ばれる運命なんです。だから、貴女がそんな事をするのは見過ごしていたい」
ミモザがそう言うと、妹さんは少し間を置き、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「・・・・・・あのご家庭の事は、もういいの。私の為に人に頼んで、私のせいにされるのなんて、いやよ!」
ミモザが妹さんを優しい瞳で見つめ、妹さんは震えている。
「・・・・・妹さんは、ずっと頑張っています。いつも貴女に助けて貰っている。私が助けたくない。貴女の人生なんて・・・・・」
妹さんの肩に優しく手を載せ、ミモザは続ける。
「大丈夫です。私は貴女の事も愛しています。貴女が幸せなら、私の方がどうでもいい事です」
「・・・・・・・」
姉を見つめる妹さんの表情は、ミモザの言葉に戸惑いと不安を残していた。
「お姉ちゃん、妹さんが・・・・・」
ジェシカもどう声をかけてよいやら戸惑っている。ミモザはキュッと口元を結んでいるが、その胸中は伺い知れない。
「・・・・・・心配するな、ミモザ」
ミモザが妹さんに触れることが出来なくなのが寂しいのだろう。
「ミモザ、大丈夫だ」
リンダはもう一度、力強い言葉で励まそうとした。
ミモザは妹さんの顔を見て、彼女の不安を軽くなぞる。
「貴女がそんな事言わなくても、妹さんはそんな人だもん...」
「ミモザ、お前・・・・・」
「・・・・・・いいのよ。貴女のお父様の言いつけ通りにしましょ。ウエディングドレスは白がいいわね。リンダは何色のドレスが似合うかしら」
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