冒険者パーティから幼馴染を追放した、その理由。

もふっとしたクリームパン

第1話 パーティメンバーは五人


 ――そっちいった!!

 ――カバーする!

 ――うぉりゃァ!!!

 ――下がって! 魔法でトドメを!


 数体の魔物を相手にパーティメンバーの闘う声が薄暗い空間に響き渡る。

 私も遅れをとるまいと、手に持つメイスを構えた。

 でも迫りくるおぞましい魔物の前で、私は足を止めた。

 止めて、しまった。


「ッ!? グゥッ!!」


 誰かが私の手を強く引いた。

 私と立ち位置が入れ替わったその誰かは、魔物の一撃を受けて倒れた。

 倒れる寸前に反撃された魔物も倒れた。


 私は治癒士。

 怪我を癒やし、毒などの異常状態を消し去る、回復魔法の使い手。

 倒れた彼を回復しなければ!

 回復魔法を使う。でも彼の血は止まらない。

 回復魔法を使う。でも彼の顔からどんどん血の気が引いていく。

 回復魔法を使う。回復魔法を使う。回復魔法を使う。

 …でも彼の目は閉ざされたまま。

 涙が私の頬を伝う。

 回復魔法を、回復魔法を、回復、魔法、を。


 ――何やってんだ、くそがッ!!


 そんな一心不乱に彼を助けようと回復魔法を使い続けていた時。

 掛けられたパーティメンバーからの言葉は…。


 ――無駄に魔法使ってんじゃねぇよ!!


 私にとって信じられないものだった。





 各地に点在するダンジョンという名の、魔物の巣窟。

 私達、冒険者パーティ『紅の星』は冒険者ギルドで受けた依頼により、そのダンジョンの一つを攻略していた。

 ジメジメとした洞窟タイプのダンジョンは王道らしく罠もあり、魔物も次から次へと現れてはこちらの命を刈り取らんと押し寄せてくる。

 それでも、頼りになるリーダーの剣士アーロンは、治癒士である私、リリナを守りながら最奥手前まで辿り着いてみせた。


 アーロンは私の幼馴染であり、大好きな人。

 そして、将来、冒険王となって世界一有名な冒険者になる人。

 私はそんな未来を知っている。

 それは何故か。

 私が、今の『私』になった時。そう…前世と呼ぶべき、別の世界で生きていた女性の記憶が甦った時。

 前世で大好きだったファンタジー漫画の世界に、転生したと知ったからだ。


 私が知っている漫画の『アーロン』は、奥さんと一緒に冒険者として活躍し、難攻不落で有名なダンジョンを攻略した実績により冒険王と呼ばれるようになる。

 その後、隠遁先でまだ幼い主人公と出会い、師弟関係になって主人公を鍛え上げ、後々でも陰ながら支えてくれる素敵な美中年。

 ただ本編には奥さんの姿は描かれず、番外編のショート漫画で奥さんの話題がちょっと出た程度なものだから、奥さんについては謎のままだった。


 同じ孤児院で育った孤児同士。まさに運命の出会いをした私は、『私』こそが彼の『奥さん』だと確信した。

 残念ながら私には転生者特有のチート能力とかが『前世の記憶』ぐらいしかなかった。代わりに治癒士としての才能があったようで、剣士のアーロンとは相性もピッタリだと思う。

 私の方がアーロンより年下だったからどうしてもメンバー入りは数年遅れてしまったけど、現に今のパーティメンバーは、私以外は男性なのだ。

 状況から見てもやっぱり『奥さん』は私以外にいやしない。


 若々しいアーロンは金髪碧眼の細マッチョで、冒険者らしい胸当て等の軽装装備ながらも、素早く剣を振るい魔物を切り捨てる姿は騎士のようでカッコイイ。性格だって明るく優しいし、普段は丁寧な口調で話すから荒々しさとは無縁なもの。まさに私の理想の夫。

 歳を重ねたら、頬に傷跡と顎髭があり、貫禄も出て威厳ある『お師匠様』になるのだって素敵な要素だ。

 正直、弟子となった主人公も成長すればカッコイイが、私が生まれた年代がズレてしまっているのだから仕方がない。

 私と彼はまだ付き合っていないけれど、冒険者としてこのまま冒険を一緒に続けていけば、いずれ彼から愛の告白をされるはず。


 アーロンは奥さんにベタぼれであるとネタにされてたくらいだし、早く告白して欲しい、いやいっそ私から迫ってみてもいいかも…なんて、道中考えてたらうっかり躓きかけて、「足元に気をつけて下さいね」、と優しく注意された。なんて紳士的!

 漫画の頃から、素敵なだなぁって思ってたけど、私はアーロンのことがすっかり好きになってしまった。

 ……だからこそ、私は楽観視していた。

 こんな良くある、そこそこのダンジョンなんかで、あの『アーロン』が死ぬはずがないと思い込んでいたのだ。

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