第10章 さくらとの出会い 【8】

 駐輪場を出た俺たちは、高空たかぞら駅近くの高架下に差しかかろうとしていた。駅の東口側から西口側に出るためには、どこかで高架下をくぐるしかないのだが、通り魔事件のあった夜に限って言えば、こんなところを通る羽目になるのは不本意極まりない。

「ごめんね、西浦にしうらくん。帰りもここを通るよね?」

「ですね。でも、帰りは俺、一人なんで。万が一不審者が突っ込んで来ても、何かされる前に自転車にまたがってるんで、逃げられると思いますよ?」

「それなら良いんだけど……」

「それより、何事もなくここを通り抜けられることに集中しましょう。」

 俺は、白石しらいし先輩より半歩前を歩いていた。いざとなったら、自転車チャリの前半分と俺自身を盾にして、先輩を守る心積りだった。とは言え、そんな事態に陥るのはできれば避けたいものだが……。

「……ねぇ、西浦くん」

「何ですか、先輩?」

「もし、明日の朝になっても通り魔の犯人が捕まっていなかったとしたら、私のこと迎えに来てもらっていい?」

「はいっ!? 先輩、電車の中で俺に送り届けもらうのは『今回だけ』って行ってませんでした?」

「……何て言うか、気が変わったの。さっき、駐輪場が物々しかったじゃない。だから、自分の身に何かあっても怖いな、って思っちゃって……」

「……そりゃそうですよ。男だけど、俺だって怖いですもん。女性である先輩が恐怖を感じるのは、当たり前ですって」

「でも、西浦くんは私を守ろうとしてくれてるよね? 自転車の前を私より前に出してるのは、そういうことでしょう?」

「聡いですね、先輩。とりあえず、どこまでできるかは分かりませんが、いざという時は俺が先輩の逃げる時間を稼ぎたいと思います」

「だけど、そんな万が一はないに越したことはないよね」

「……まあ、そうですね」

 そこで俺たちは思わず吹き出した。

元々お互い「そんなつもりはない」はずだったのに、いつの間にかよそよそしさがなくなっていたからだ。

 何事もなくどうにか高架下の暗がりを抜けた俺たちは、五色田町ごしきだちょうの方向へ歩いて行った。

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