第10章 さくらとの出会い 【5】
「えっ⁉︎ 良いの?
「ええ、乗りかかった船……、というか、完全に船に押し込まれちゃった感じなので、最後までミッション完了させてください」
「でも、私を家まで送っていくと、西浦くんの帰る距離が長くなるし、時間は遅くなるし……」
「何を言ってるんですか、先輩! 女性である先輩と男性である俺。不審者が狙うとしたら、どっちの確率が高いと思ってるんですか」
「そりゃあ、私のほうが可能性は高いけど……」
「だったら、なおさら、俺の提案を受け入れてくださいよ」
俺たちは、
……もし、万が一のことがあっても、これで白石先輩は守れるぞ……。
「西浦くんが、心配ない、って言うんなら、お言葉に甘えなくもないけど……」
「大丈夫ですよ、先輩。俺のことは、心配ないですって」
「……。そこまで言い切れるんなら、今回は折れてあげる。……でも、『今回は』、だからね!」
「……分かりましたよ、先輩。今回限りの特例、ということで」
そこで俺は、改めて隣に座る白石先輩に目をやった。
絹のような長い黒髪。ほんのりと白い肌。不自然じゃない色味のナチュラルメイクは、元々の素材の良さの現れなのだろう。それが夜景の窓に映えて、まるで絵画か写真集の中の1枚のような美しさが醸し出されていた
「西浦くん、何見てるの?」
「……ああ、先輩は夜景に映えるな、と思ってまして……」俺は思わず素直な感想を口にした。
「ふふ」案の定、白石先輩は笑い始めた。
「ヤダ、西浦くんたら、ナンパのつもり?」
「違いますよ、俺は正直な感想を述べさせてもらっただけで……。下心なんか、これっぽっちもないですから!」
「……分かってる。……だけど、『何、似合わないキザなこと言ってるんだろう?』とか思ったら、笑えて来ちゃって……」
「……確かに、キザなのはガラじゃないですけど、何もそこまで笑うことないじゃないですか……」
「うふふ。ごめんね。でも、西浦くんにも、ちゃんと女性を見る目はあったんだ、と思って」
「もう、先輩。俺のこと何だと思ってるんですか。俺だって、19の男ですよ。年相応に女性への関心もありますよ?」
「……何と言うか、西浦くんって、ピュアそうだから、女の子にモテそうなんだけど、その実は「仲の良い異性の友達止まり」というか、みたいなタイプだよね、と思って」
「先輩、エスパーですか? 確かにそう言うパターン、多いですけど……。」
「やっぱり。だと思った。西浦くん、優しいもの」
「「優しい」じゃなくて、「紳士的」って言って欲しかったですけど……。まぁ、良いか。とりあえず、もう一度言わせてもらうと、さっきのは、「素直な感想」であって、お世辞でも下心の現れでもないですから」
「分かった。もういじらない。「西浦くんのジェントリーシップ」ってことにしてあげる」
その時、車内放送で、『次は、高空〜、高空〜』と停車駅を告げるアナウンスが聞こえてきた。
「先輩、次、降りますよ」
「だね。降りる用意、しておこうか」
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