勇敢なるG

ひぐらしゆうき

勇敢なるG

 G


 それは人類のほぼ過半数の者が憎悪の目で見る黒光りした生きた化石である。

 彼らの一部は森との共存を捨て人類の生活空間に紛れ込み、今日も暗い闇の中から餌を求め跋扈している。

 そんなG共に人類が手をこまねいているはずもなく、粘着シートから氷結スプレー、毒入り飯によるトラップを開発しG共の駆逐に乗り出している。

 いくら生命力や繁殖能力が強かろうとGには人類に対抗する武器はない!所詮は虫けら、一思いに捻る潰されるのみである!

 そんな状況下、1匹のGは果敢にも人類への反抗を企てた!そして今、それをなそうとしているのだ!


「よく聞けい!人類共!我らGは貴様らに言いたいことがある!」


 勇敢なるG、なんと摩訶不思議なことか!どう足掻こうと虫に過ぎないG達種族には到底不可能であるはずの人語を見事に操って見せているではないか!

 そう、Gは攻撃は効かずとも、口撃ならば精神的ダメージを与えられると考えたのである!このような考えを実行し、現実に可能にしたこの勇敢なるGはまさしくGの中のG!Gの神を名乗り宗教を立ち上げてもおかしくはない!それほどまでの大偉業!

 しかし!眼前に立つ人類は全くもって驚いていない!虫が人語を喋っているというのに冷静沈着、無表情な顔をして、冷ややかな目で見下すようにGを見つめている。その手にはG社会で最も恐れられている最凶の武器、G抹殺ジェットが握られている!

 G抹殺ジェットは人間社会でいう核に等しい殺戮兵器!1匹のG相手に問答無用で使用するとはあまりにも無慈悲!しかし、それをためらわない。当然である!人間はGごときに時間をさく暇はない。最も早く、確実に仕留めることができる最大最強の武器を持って殲滅せんとするのは全くもって合理的な判断なのだ!

 しかし、そのような殺戮兵器を前にしても勇敢なるこのGは怯むことない!


「貴様ら、よくもまあなんの躊躇いもなく我が同胞達を殺してくれたな!」


 巨大を屈めてGに顔を近づける。人類顔を近づけるという行為は、滅多にしない。しかし、それをする時というのは間違いなく、その人類はプロのGスレイヤー!数多のGを抹殺し続けたG殺しのプロフェッショナル。部下として天敵たる鬼軍曹を使役しているとも言われる恐怖の帝王!間違いなくGの命を刈り取らんとする意思が見えている!


「我が父は貴様らの非道なるトラップにかかり飢え死にし、盟友は貴様のスプレーに殺された!我が子達は毒霧によって抹殺されたのだ!そして、私は後ろ足を一本粘着シートに持って行かれた!許せん!」


「いや、そんなこと知らないんで」


 人類は銃口をこちらに近づけ、トリガーに手をかけた!


「血も涙もない奴め……」


「Gに時間割けるわけないでしょう」


「なんだと!何様のつもりだ!若造め!」


 勇敢なるG、凄まじき速度で人類の前から消え、高き棚の上へと飛びあがったのだ!そしてGは圧倒的早口で口撃を開始した!


「貴様ら人間は生意気だ!我ら一族がどれだけ昔からこの地に生息していると思っているのだ!所詮貴様らは10万年、我々は3億の歴史がある!我々こそが本来この地を治めるにふさわしき種族なのだ!Gこそ正義だ!」


「……そこで語るのですか?虫は所詮虫。人には勝てません」


「知能だけが全てではない!我らの数に貴様らは勝てると思うか?たとえ虫であろうと数で圧倒できる!数の暴力というものを知らん見える」


「数が多ければいいというものでもない。それに、全てのGが人々の生活に依存するものではない。その殆どは森に住う。ならば貴様の思想に同意するものなどたかが知れている」


 人類はなんと懐からGにとっての毒ガスを発生する赤い筒を取り出したではないか!完全なる2段構え。Gスレイヤーに隙はないのだ。


「こいつを使えば全滅だ」


 しかし、それでも負ける気のない勇敢なるG。


「貴様らの武器が進化するように我らの耐性も進化する。3億の年月を生き抜いてきた我ら種族を舐めるな!」


 失態!勇敢なるG、大きく叫び行動を起こすまでに時間がかかる!そんな一瞬の隙を見逃す人類ではない。すかさずG抹殺ジェットが発射された!


「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 絶望的な絶叫が木霊する!


「おのれ!いずれ我が同士がこの世を統べる王となる!その時を指を咥えて待っているのだな!」


 勇敢なるGここに死す!


「…………殺さず研究機関に送るべきだったか」


 人は少しばかりの後悔をした。

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勇敢なるG ひぐらしゆうき @higurashiyuki

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