生涯童貞だった最強剣聖はローパーに生まれ変わってエロゲ展開の夢を見るのか?
鳳嘴岳大
第一章 童貞ローパー爆誕す!
第1話 かくて最強剣聖は二度目の生を与えられる
この世界には天下十二剣聖と呼ばれる
彼らは異なる道を歩みつつも、しかし、
心技体の
その強大な力
だが、彼らは人類最後の希望でもある。
世界を揺るがす災いが訪れればその聖剣を振るうことをいとわない。
故に天下十二剣聖は全ての人類の守護者とも呼ばれている。
そんな天下十二剣聖の筆頭がロパ・カイエスという男だった。
既に武人としての盛りは終えているが、それでもなお天下十二剣聖の筆頭であり続ける世界最強の男だ。
たった一振りで千の敵を斬ることから〝千斬のロパ〟とも呼ばれる。
彼は十一人の剣聖と共に百万を超える魔物の軍勢を討ち滅ぼしただけではなく、魔物を率いていた堕天の魔王ジャニズエルを討ち取る偉業を成し遂げた。
だがしかし、それは自らの命と引き換えの戦果であった。
ただひたすらに剣の道に生き、戦うこと以外に何も知らぬまま守護者としての任を終えたロパは、今、天界の入り口で天使の祝福を受けようとしている。
そこは見渡す限り金色の雲に覆われた空の上だった。
見上げれば紺碧の空以外に何もない世界。
そこにそびえ立つ巨大な扉の前に彼は立っている。
目の前の扉は固く閉ざされ、その先に何があるのかはわからない。ただ、光る翼を持つ一人の天使が、微笑みながらその前にたたずんでいるだけだ。
天使に年齢があるのかどうかはわからないが、ロパの目にはまだ十代の乙女のように映った。雲と同じ金色の髪に、空と同じ紺碧の瞳。ほどよい肉付きなのに、腰はくびれ、手足は細い。まつげも長く、目はつぶらで、その面差しはこの世ならざる美しさを持っていた。そんな少女の姿をした天使が、やけに露出の多い純白のドレスを身にまとい、花束を持って微笑んでいる。
絶世の美少女が目の前にいるというこの状況にもかかわらず、ロパは全く喜ぶそぶりを見せず、ただ一つ大きなため息を
「守護者ロパ・カイエスよ。私はあなたの守護天使エルアーリアです。魔王の討伐、
天使エルアーリアが手にする花束をロパに差し出す。
だが、ロパはそれを受け取ることなく後ずさる。
「どうしたのですか? さあ、この花束を……」
再度差し出そうとするエルアーリアの手をロパは強くはたいた。
花束が少女の手を離れ、宙を舞って金色の雲の上に落ちる。
「どう…して……?
無残に散らばる花びらを見つめ、呆然とたたずむエルアーリア。
「はぁ……」
ロパはもう一度深いため息を吐いてから彼女に言い放った。
「俺はなぁ……。俺は……」
「俺は?」
「ただただ女にモテたかっただけなんだよ……」
「???」
さらに混乱するエルアーリアの前でロパは拳を固く握りしめた。
「最初に啓示をくれた時だ。強くなったら女の子にモテるかって聞かれたおまえは絶対にモテるって言ったよなぁ……?」
「確かにそう答えましたがそれが何か?」
「だったら、なんで世界最強だったはずの俺は五十三にもなっていまだ童貞なんだよ!!!」
「それは……」
「俺にもさ。いけるんじゃねぇかって時があったよ。あの
ロパは怒りに肩を震わせる。
本当なら殴りたいのをどうにかこらえ、エルアーリアの答えを待つ。
「あなたの言いたいことはわかりました。ですが、啓示で私の言ったことは全て事実です。強い冒険者を誘惑してそのおこぼれにあずかろうとしたあの
「じゃあ、何か? おれが見る目がなかったっておまえは言いたいのか?」
「端的に言えばそうなりますね」
「だとしてもだ。全部のチャンスを潰すことはねぇだろ」
「全ては父なる神の
頬を赤らめるエルアーリア。
ロパはそんな彼女の言葉を遮るようにその場にしゃがみこむと大の字になって寝そべった。
「もういいや……」
「え?」
「もういい。もう、うんざりだ。どうせ天使になって天界に行っても、またこきつかわれるだけなんだろ。そんなのもうごめんだよ」
「いや、そんなことは決して……」
「あーあ、こんなことなら啓示なんて無視してやりまくっておくんだったよ」
「天界に行けば私を含め天使達の祝福を受けられますよ」
「はいはい、もう騙されませんよ。祝福って、あれだろ? ほっぺにチュ的なやつだろ? そんなんで五十三年間たまりにたまった俺の欲望が解消されるわきゃねぇだろ!」
「そもそも天使になれば肉欲を捨てられます。たまりにたまったそれも霧散してしまうことでしょう」
「じゃないかと思ったよ……」
ロパはそう言うとエルアーリアに背を向けるようにして寝返りを打った。
「俺を消してくれよ……。もう女が抱けないんならさ、いっそのこと俺をこの場で消してくれよ……。生まれ変わってもまたオモチャにされるのなんざ、ごめんだね……。だからさ、俺を消してくれよ……」
女の子とやりたい。
ただその一念が彼の支えだった。
その為に守護天使の啓示を受けて戦場を駆け回った。
無論、男も含め数え切れない命を救った。
だから、少しくらいは羽目を外して良いはずだったのだ。
なのに、一度も遊ぶことなく、今に至っている。
天界ではそんなこと望めそうにもない。
完全に望みを絶たれた彼はもう存在し続ける意味を見失っていた。
「どうしても淫らなことがしたいのですか?」
すっかりあきれ果てた声でエルアーリアが
「どうしてもしたいな。一発もできないまま死んでたまるかよ」
その言葉を聞いてエルアーリアはため息を漏らす。
「はぁ……。わかりました……。あなたの望みを叶えてさしあげます……」
「言っておくが、おまえを含む天使はごめんだぞ。ちゃんとした人間の女の子以外はダメだからな」
「いいでしょう。私の力であなたに
「なら、魔物はどうだ? 魔物の中には人間を犯すものもあった。そういうものに俺はなりたい」
「最低ですね……」
心の底から軽蔑しきったエルアーリアの言葉にさすがの彼も胸が痛んだ。しかしそれはチクリと虫に刺された程度のものでしかない。それに、天使が魔物を作れるとも思えない。ただ皮肉、いや、悪い冗談のつもりだった。
「わかってるさ。どうせ、おまえにゃできないんだろ?」
ロパは再び寝返りを打ち、エルアーリアの方に向いた。
「本当に最低です……」
最低と繰り返すエルアーリアの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
魔王すら倒した最強剣聖と言ってもロパは童貞である。
女の涙を見て動揺しないわけがない。
「おいおい、ちょっとした冗談だよ。何も泣かなくても良いだろ? な?」
ロパは立ち上がって弁明する。
だが、時既に遅し。
眼前の天使の失望は怒りの域に達していた。
「せっかく……私の初めて……だったのに……」
ブツブツと何かをつぶやくエルアーリア。
その頬を一筋の涙がこぼれ落ちる。
「もう怒りました。望み通り、あなたを醜悪な魔物に変えてさしあげます」
「おいおい、冗談だって言ってるだろ。ってか、魔物にすることなんて本当はできないんだろ? 勢いで言ってるだけだよな?」
ロパの問いかけにエルアーリアは決然と首を振って見せた。
「醜い化け物となり、地上を這いずり回って悔い改めなさい!!!」
エルアーリアが手をかざすと、ロパが立つ場所だけ金色の雲が消え失せ、ぽっかりと開いた穴にその身が落ていった。
「うわああああっっっっ!!!!」
無論、ロパは生身ではない。ただの魂、霊体に過ぎない。このまま地上に落下しても死ぬわけじゃない。頭で理解はしているがそれでも落ちるという感覚はある。遙か天空の彼方から異常な速度で落ちていくという実感にその意識は次第に薄れていくのだった。
そして、次に目覚めた時、彼はいくつもの触手を持つ奇怪な生物、ローパーという魔物に変化していた。
「あのクソ天使がああっっ!!!!!!」
見知らぬ森の中、生い茂る木々の下、ロパは叫ぶ。
それは最強剣聖と言われた男の第二の人生の始まりだった。
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