第71話 《テトVSチェイン ①》
ケット・シー族のテトは、チェインの転移魔法に巻き込まれ城下町のメインストリートまで来ていた。
暗闇に飲まれたかと思うと、いつのまにかここに転移していたのだ。
テトは周囲を見渡し、正面にチェインの姿を見つけた。辺りには人だかりが出来ている。みんな、「いきなり現れたぞ!」だとか、「銀髪の女は誰だ?」と、困惑している。
テトの真紅のツインテールが風に揺れる。警戒し、猫耳を立て、テトは八重歯を覗かせ問いかけた。
「あんた、悪い魔女なのよね? イブキが言ってたわ。――なんで、こんなところに転移したのよ」
「ギャラリーが多いほうが、盛り上がるでしょう?」
チェインは口元だけを動かして不気味に笑う。金の瞳には感情の色が見えず、ただじっとテトを凝視していた。
チェインは続ける。
「別に、あなたに恨みがあるわけじゃないわ。ただ、邪魔になりそうだから、殺すだけ。ケット・シー族を殺すのなんて、初めてだわ。どんな声で鳴くのかしら?」
「はぁ?」
テトは冷たい目でチェインを睨みつける。気の強そうな目に、より一層覇気が込もる。
「ちょーむかつくんですけど」
一瞬変な口調になったが、テトが機嫌を損ねたことにかわりはない。
チェインの視線が、住民の方へ向けられた。小さな子を抱きかかえた母親だ。その住民へ、チェインが手の平を向ける。と、チェインの手元から、金の鎖がじゃらじゃらと音を立てて勢いよく放たれた。
母親はぎょっとして、子供をより一層抱え込む。他の住民たちが、悲鳴を上げる――。
しかし。
鎖が、突然地面へと落ちた。中程から真っ二つに切り裂かれている。金の鎖は音もなく消え去り、チェインだけがただじっと、テトの様子を眺めていた。
「それが、《剣聖術》ね。初めて見るわ」
さっきまで剣を装備すらしていなかったのに———剣を振り下ろした体勢のまま、テトが立っていた。右足を踏み込んでいて、剣先は地面すれすれまで振り下ろされている。綺麗なシルエットだ。
テトの手には、細身の剣が握られていた。刃は純白に輝き、冷気のようなものを放っている。テトは、最初の位置から動いていない。なのに、離れた場所にあった鎖を、音もなく断ち切ったのだ。
遅れて、テトが唱えた。
「――《ソードクリエイト》、ホワイト・スラスティア」
ケット・シー族が扱う《剣聖術》の一つ、剣を生み出す初級魔法、《ソードクリエイト》。ケット・シー族が、剣を持ち歩かない理由の一つだ。
《ソードクリエイト》は、ケット・シー族がそれぞれ心に宿す剣のイメージを具現化するもの。一人につき一つ、剣を生成できるのだ。
ケット・シー族が生成する剣には、それぞれ能力が備わっている。
テトが生成した剣、『ホワイト・スラスティア』は、「離れた場所にある物を切ることができる能力」を持っていた。
住民たちが、悲鳴を上げて一斉にその場を逃げ出す。助けた親子も、テトへ頭を下げすぐに逃げていった。
すでにこの場には、テトとチェインしかいない。
「あんた、気に食わないわ」
とテト。そのまま言葉を紡ぐ。
「関係ない人を巻き込んで、なにがしたいのよ。あたしは別に、正義の味方でもなんでもないけど……あんたたちのやり方は、むかつく。《魔女の茶会》が何よ。あたしが、潰してやろうか」
テトは、「弱きものを助けろ」と両親に育てられてきた。チェインは、真逆だろう。力を持っているからこそ、人を傷つける権利があるとでも思っているのではないか。
チェインは銀の髪先を指でいじりながら、表情を崩さない。
「威勢が良いわね、お嬢ちゃん。ケット・シー族ごときが、あたしたちに勝てるとでも?」
「そのケット・シー族ごときに今から負けるのよ、あんたは」
テトは剣を片手に、体を半身にした。全身をリラックスさせ、剣を体の陰に隠すようにする。中々、様になっている。
それもそのはず。
テトは、イブキと違い戦闘経験が豊富なのだから。
チェインも、テトの雰囲気を感じ取ったらしい。意識を集中させ、次の攻撃に転じようとしているのがわかる。
そして前触れもなく、どこからともなく現れた金の鎖が、一斉にテトへ襲いかかった――。
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