第64話 《2日目 魔法サバイバル ③》
イブキはグライファルトを真似て、右足を一歩、力強く踏み込んだ。そしてそこから、地中へ向けて魔力を流し込む。
すると、グライファルトの足元が、魔術によって突然弾け飛んだ。
雪と土が激しく舞い上がる。木の上に積もっていた雪も、衝撃で落ちてきた。
しかし、グライファルトは無事だった。見れば、グライファルトを囲むように、低い土壁ができあがっていた。あの土壁によって、イブキが流し込んだ魔術を防いだのだろう。
土魔法は、攻撃的な属性魔法ではない。だが、相手の攻撃をいなす柔軟性と、固い防御力を兼ね備えている。極めつけは、先程の男と決着をつけたようなカウンターが待っているのだ。
グライファルトが地面へ手を触れる。イブキが咄嗟の判断でその場を飛びのけると、石柱が地面から突き出してきた。
イブキのローブをわずかにかすめる。そして着地したと思った瞬間、またしても石柱が襲いかかってきた。
「また……っ!?」
イブキは魔術を使った《動体視力向上》により、危なげなく躱す。また着地した地面が盛り上がり始めたところで、イブキは魔力を足に集め太い木の枝目掛け跳躍した。
魔術を靴裏に込め、木の枝と密着させる。イブキはかがみ込んだ体勢のまま、グライファルトの余裕そうな表情を睨みつけていた。
「土魔法と戦うの初めてなだけだし! 慣れたらあなたなんかヨユーよ!」
負けず嫌いのイブキは、無意識の内に幼女らしい仕草で舌をべーっと出してみせた。グライファルトは、また鼻で笑い、低い声で告げる。
「戦場ではどんな理由も関係ない。勝つか、負けるかだ」
(ごもっとも……だけどムカツク!)
イブキは納得してしまった。
悔しそうに唇をきつく引き結ぶイブキ。と、グライファルトの次の行動に、反応がわずかに遅れた。
グライファルトは、体の陰で石槍を生成していたのだ。無骨だが、矛先は鋭い。と、それをイブキ目掛けて投げつけてきた。
だが、それはイブキがかがみ込んでいる枝元に突き刺さっただけだった。
「へいへい、ピッチャーノーコン!」と煽ってやろうとした直後、ぴきっという嫌な音が聞こえた。
音の方向へ視線を向けると、槍が突き刺さった枝元の部分に亀裂が入っていた。
イブキの体の重みで、枝は根本から折れてしまう。体勢を崩したイブキは、地面へ向けて真っ逆さまだ。
(いや……大丈夫!)
空中で体勢を立て直し、イブキは綺麗に地面へと着地する。下が雪のお陰で、衝撃を和らげることはできた。
イブキが顔を上げると――グライファルトが、真正面で拳を振り上げていた。振り上げる右手は、土魔法で強化したのかごつごつとした岩のようになっている。
「――ッ!?」
イブキは顔をずらしてなんとかグライファルトの拳を避けきった。頬を拳がかすめていく。その一瞬の間に、グライファルトの覚悟を知ることとなった。
彼は、本気で勝ちにきている。相手が幼女姿だとか、関係ないらしい。
だが……その方が、全力で戦える。
イブキは避けた反動を使って体をひねり、そのまま鳩尾目掛け回し蹴りを食らわせてやった。幼女の体だとはいえ、魔術で身体能力を向上させたのだ。少しくらいは、ダメージがあるだろう。
――しかし、イブキの蹴りは届いていなかった。グライファルトが、空いた左手でイブキの足首を掴み受け止めていたのだ。
動きを拘束される。グライファルトが魔法を展開しようとしているのがわかる。
「な……めんなッ!」
イブキは吠えるように言葉を吐き出し、頭上に魔力が象る剣を五本生成してみせた。それらを、グライファルト目掛け解き放つ。すると、掴んでいた足首を手放し、グライファルトがバックステップで距離を取った。
魔力の剣は、地面に突き刺さった瞬間、煙となって消える。
二人は構え直し、互いに睨み合った。と、グライファルトが品定めを終えたかのように、「ふむ」と声を漏らした。
「なるほど。噂には聞いていたが魔術とは実に厄介だな。だが、全て想像通り……いや、それ以下だ」
「……はぁ?」
森羅万象に関与し、現象を引き起こす魔術が、「想像以下」だと?
「大方、本気で魔術を扱ったことがないのだろう。どうだ、俺に全力で魔術を使ってみないか?」
――全力で、魔術を?
確かに、イブキにとって、全力で魔術を使う機会はほとんどなかった。サイハテの荒野での、ハーレッドとの戦いくらいか。あれは、がむしゃらに使ってただけかもだけど……。
目の前のグライファルトも、相当な実力者だ。防御に特化した土魔法を操る彼なら、もしかしたら……。
できる限り相手を怪我させないようにとか、魔力を暴走させないように、だとか、イブキは少なからず気を使ってきた。昨日の戦闘イベントが、まさにいい例だ。
(全力で。いや、魔術の場合は、「自由に」か)
イブキは息を吐いた。優勝を目指すグライファルトが、なぜアドバイスをくれるのかはわからない。ただ、イブキの魔術でがっかりさせてしまったのは事実だ。
「……先に謝るわ、グライファルト」
イブキの言葉に、グライファルトが身構える。そして、続けた。
「怪我しても、知らないからね」
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