第49話 《星火祭へ向けて ①》
「……こほん」
満足したシャルが咳払いをして、ようやくイブキから手を引いた。イブキはというと、シャルの『ぷにぷに攻撃』に魂を抜かれている。ベッドの端に腰掛けながら、虚ろな目をしていた。
そこで、イブキは意識を取り戻した。はっとして、シャルとリリスから距離を取る。
(こ、この姉妹は危険だわ……っ!)
警戒する猫みたいに窓際まで下がる。すると、シャルは第2部隊隊長としての威厳を取り戻し、優しい声音で告げる。
「話は聞いています。《星火祭》についてですよね」
「いきなり真面目な話になったわね」
いてもたってもいられずイブキがツッコミをいれる。
リリスが椅子に腰掛けたところで、イブキはシャルへと《招待状》を取り出してみせた。
「別の大陸からこれが届いたの」
イブキは警戒しながら近づいて、シャルへ手渡した。招待状を眺めるシャル。ひとしきり目を通してイブキへと返してくる。
「懐かしいですね、この招待状も」
「シャルも、もらったことがあるの?」
「いえ。私ではなく、両親です。リーゼロット家は、落ちこぼれの家系として扱われてきましたが、一応貴族の家系です。《星火祭》は、世界中の貴族を招待するんです」
「シャルもリリスも、お嬢様なの!?」
「あれ、言ってませんでしたっけ……?」
とリリスが首を傾げ、姉妹揃って顔を見合わせる。そんなこと、言われたことは一回もない!
シャルは続ける。
「私が18歳の頃なので、3年も前の話です。その年だけ、たまたま招待されて、私は両親と一緒に《星火祭》が開かれるエスタリア大陸へ向かったのです。リリスは、風邪を引いてお留守番でしたね」
リリスは「もったいないことしたなぁ」と過去を悔いている。
それから、シャルは《星火祭》について話してくれた。
《星火祭》は、エスタリア大陸の『ストラルン』という大きな国で開催されるらしい。
エスタリア大陸は、今イブキたちがいるヴォルシオーネ大陸から、丁度北西に位置している。ストラルンは別名『雪国』と呼ばれており、一年中雪が降っているのだそうだ。
《星火祭》の招待状は、ストラルンの国王が世界中の貴族や有名人に送りつけている。エネガルムを救った英雄とはいえ、《魔女》が招待されることなど前代未聞なのだそうだ。
「わたし、大丈夫かな……?」
自信なく問いかけると、リリスが励ましてくれた。
「イブキさんなら大丈夫ですよ! ストラルン国王直々の招待なのですから、自信を持ってください!」
《災禍の魔女》の噂は、リムル神の予言のせいで世界中に広がっているはずだ。他の大陸でどういった扱いをされるのかは、想像がつかない。
――《星火祭》は、一年に一度、開催される。招待される以外にも、一般参加も可能だそうだ。だが、招待状を受け取っているかどうかによって、待遇にかなり差があるらしい。
肝心の《星火祭》の内容だが……それは教えてくれなかった。シャル曰く、「とても綺麗で、すごいから、事前情報無しで楽しんでほしい」とのことだ。
それも、シャルの計らいだ。素直に受け取るとしよう。
「……ストラルンには、どうやって向かうの? 転移ポータル?」
「いえ」とシャル。「ストラルンには、転移ポータルが存在していません。それに、山々に囲まれているので、飛空艇で行くしかないのですよ」
「ひ、飛空艇?」
確かに、海があって海賊船もあるなら、空には飛空艇、か。最初にこっちの世界に来た時は海賊船の存在にびっくりしてしまったが、今ではもうこの世界に順応してきている。滅多なことじゃ驚きはしない。海賊船の存在も、飛空艇も、竜の存在も、全て当たり前のことだ。
飛空艇は、ヴォルシオーネ大陸の東にある町『セネン』から出ているらしい。そこへは、エネガルム西側の遺跡にある転移ポータルから行けるのだそうだ。
イブキはあっちの世界での出来事を思い浮かべる。飛行機すらまともに乗ったこと無いのに、いきなり飛空艇だなんて、大丈夫だろうか……?
不安は募るばかりだ。
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