プロローグ

第1話 《取引先に、メール送ったっけ?》


 あれ。


 取引先に、メール送ったっけ?


 守戸もりと唯吹いぶきは、を眺めて、ふと、思った。 

 会社のビルの屋上から、真っ逆さまに落ちている。

 いや……あいつに、落とされた。


 顔は見えないが、あいつが私を突き落としたのだと、唯吹は理解していた。


 それにしても、クソみたいな人生だった。


 大学を卒業して就職したのは、残業当たり前、家に帰れないの当たり前のブラック企業。

仕事の為にプライベートを殺す日々。 

 プライベート? 仕事のためにある時間のことでしょ。


 部長のセクハラにも耐え、半年。もう限界も来ていたところだ。


 彼氏も出来たことがない。楽しいこともできていない。ほんと、最悪だ。


 いっその事、死んでしまおうかと考えたこともあったが、こんな終わり方とは……。


 唯吹は目を瞑った。


 耳元で風が唸る。


 空が遠のき、地面が近づく。


 都会の喧騒が、頭の中で鳴り響く。


 そして、綺麗な景色が頭の奥で弾けた。



 草原を駆ける翠の風。翠の風は丘を撫で、草木を優しく揺らす。


 青空には、太陽が浮かぶ。


 雲を突き抜け、空へ舞い上がる竜。

 レンガの街並み。空飛ぶ飛空挺。

 見たことのない人々が、笑顔で過ごしている。



 守戸唯吹はため息をついた。

 私、こんな綺麗な世界に生まれたかったな。


 そして、地面に体が———。

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