No.
雪野 ゆずり
1
楓くんと付き合い始めて二ヶ月。ついに初デートの日を迎えた。
待ち合わせの場所に行くと、まだ三十分前なのに楓くんがいた。
「ごめん、待った!?」
駆け寄ってそう言うと楓くんはびっくりした顔をした。
「いや、まだ三十分前だぞ?早くね?」
「そ、それは楓くんも···。」
「それは、そうなんだけど。女の子待たせる訳にはいかないじゃん?」
そう言われてキュンとする。さすが、学校一の人気者。言うことが違う···。
「さ、行こうぜ。映画の席、いい所取ろ!」
「うん。」
そう言って楓くんは歩き始めた。正直速い···。着いていけない···。ほかの女の子とかも、こうだったのかな?
「あ、悪い···。足、速かったか?」
私に気付いて楓くんが振り返る。
「う、うん、ちょっと···。でも、大丈夫、着いていけるよ。」
笑顔でそう言うと、楓くんは首を振った。
「そんな息切れした声で言われても説得力ないし。ほら、手、繋いでればはぐれないだろ?あと、俺ももうちょいゆっくり歩くから···。」
そう言って楓くんは手を差し出した。その手を取っていいか迷う。
「何してんだ。」
悩んでいると楓くんが強引に手を取った。それでドキッとする。
「ほら、行くぞ。」
そう言って私の手を引いて歩き出す。なんだか、夢みたいだ···。
私達が恋人同士になったのは2ヶ月前。告白は、なんと楓くんからだった。
楓くんは学校一の人気者で、かたや私はなんの取り柄もないいわゆる地味女子で···。その前から何回か楓くんから告白されてたけど釣り合わないと言う理由で断り続けていた。
ただ、私も楓くんのことが好きだった。五度目の告白でついに私もOKを出した。その時の楓くんの顔はとても嬉しそうだった。
「あ〜、恋愛映画なんて久しぶりに見た。」
「ごめんね、私の趣味に付き合わせちゃって···。」
「ん?良いって!面白かったし、あんま見ないジャンルだから、楽しかった。こっちこそありがとな。」
そう言って楓くんは笑った。
「それよりさ、昼飯、どうする?」
「あ、もうそんな時間なんだね。なにも考えてなかった···。」
「じゃあさ、近くにいい感じのオープンカフェがあるんだ。そこ、行かね?」
「オープンカフェ?」
聞いたことはあるけど、どんな所かは知らない。
「あれ?咲良、好きそうだなって思ったんだけど···。」
「ごめん、行ったことないの。」
正直に言うと楓くんはポカンとした。
「え?花純と一緒に行ったりしねーの?」
「う、うん···。その、そう言うオシャレな所、怖くて···。」
「····」
か、固まっちゃった···。そうだよね、普通そんな事で怖いとか言わないよね···。そう思ってるとフイっと楓くんが顔を背けた。なんだかプルプルしてるし、まさか、怒らせた!?
「お、怒ってる?」
私が聞くと楓くんは私の顔を見て笑っていた。
「わ、悪い···可愛いなって思っただけ···。」
そう言ってまた笑う。ほ、ほんとかな〜?
やっと笑いが鎮まったのか楓くんはため息を一つ吐いてから言った。
「じゃあ、初体験と行こうぜ。」
そう言って楓くんは手を差し出した。まだちょっと恥ずかしいけど、その手をとった。そうすると、楓くんはちょっと嬉しそうな顔になった。
カフェに着くと楓くんは、席を取ってくれて、椅子を引いてくれて···なんだか、紳士みたいだった。
「あ、ありがとう···。」
「良いって···。何頼む?」
「えっと、じゃあ、カフェオレと···レディースランチで···。楓くんは?」
「ん?そうだな···ブラックと日替わりランチかな。」
そう言って店員さんを呼んで注文をした。
「ブラック!?お、大人だね···。」
「そうか?普通じゃね?」
「普通じゃないよ〜。私飲めないもん···。」
「いいじゃん、女の子はそれくらいが可愛いぜ?」
「か、からかわないでよー!」
「ははは、悪い悪い。」
そんな事を言いながらお昼を食べた。
「午後は?」
「へ?」
「なんか、したい事とかないの?」
食べ終わって、急にそう聞かれてびっくりした。今まで楓くんと付き合った子の話(噂とか)だと、自分の好きなようにデートすると聞いていたからてっきりそうなのかと思ってた。
「えっと、特に何も考えてなかった···楓くんは?」
「···俺、咲良と行きたい所があるんだけど、いいか?」
「え?うん、いいよ。」
「ありがと。じゃあ行くか。」
「う、うん。」
行きたい所ってどこだろう?そう思いながら楓くんの手を取る。しばらく歩くて路地裏に入ったところで足が止まった。
「ここ、行きたい所。」
そう言って指さした先には扉が一つ。ここが、行きたかった場所?
「入るぞ。」
「う、うん。」
なんか、怪しいお店じゃないよね?そう思いながら入ると楓くんとどこか似てる人がいた
「兄貴。」
兄貴ってことはお兄さん···。
「よ、早かったな。で?その子がお前の彼女?」
「ああ、咲良、こいつ俺の兄貴。」
楓くんがそう紹介してくれた。私も慌てて頭を下げる。
「は、初めまして!三波咲良です!楓さんにはいつもお世話になってて···。」
「あはは、そんな硬くならなくていいよ。呼び方も普通でいいし。俺、秋野玲緒。よろしく。」
「よ、よろしくお願いします。」
楓くんは私を玲緒さんに紹介したくてここにきたのかな?
「それより兄貴、準備出来てんだろうな?」
「へいへい、出来てますよ。」
準備?なにかするのかな?よく分からなくてオロオロしてると楓くんが説明してくれた。
「ここ、兄貴の写真スタジオなんだ。兄貴、これでもプロの写真家なんだよ。」
「え?す、すごい···。」
「まだまだ駆け出しだけどね。それで、今日は初デート記念にこいつから写真撮ってくれって頼まれたの。」
「え?き、記念?」
それって、私と楓くんの?き、聞いてないよ〜!
「その、よくあるんですか?こういうこと。」
「いや、君が初めて。」
「おい、兄貴!」
玲緒さんがそう言うと楓くんは怒って大きい声を出した。
「え?ホントのことだからいいだろ?」
「そうだけど···。」
初めてって、だって、楓くん、色んな人と付き合ったことあるんじゃ···。
「さ、撮るよ撮るよ!そこに二人で並んで!」
私の疑問をよそに、写真撮影は始まった。色んなポーズとって、いっぱい撮られた。なんだか、一生分撮られた気がする。
「はい、おしまい!」
「サンキュな。」
「ありがとうございました。」
私達がそう言うと玲緒さんは頷いた。
「写真、出来たら楓に渡すから。」
「はい、楽しみにしてます!」
そう言って私達はスタジオを出た。外は日が傾きかけていて、どれだけ写真を撮られていたか分かった。
「疲れてないか?」
「うん、大丈夫。」
「そっか。」
そう言って優しく笑った。
その後楓くんは家まで送ってくれて、その日はお開きになった。もっと一緒にいたい。そう思うのは我儘かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます