マッチングアプリを始めてみたら、サークルの後輩とマッチングしてしまった件
久野真一
第1話 サークルの後輩とマッチングしてしまった件
マッチングアプリ「ベアーズ」を始めてみようと思ったのはほんの出来心。
きっと、2021年の日本、というか、世界が新型コロナ禍に襲われなければ。
別段考えもしなかっただろう。
通称、新型コロナウイルス、COVID-19は、
世界のありかたを全く変えてしまった。
最初は、「なんか、中国で変な疫病が流行っているらしい」という認識。
しかし、次第に、全世界に拡大し、アメリカや欧州で猛威を奮っている。
日本は比較的マシな方だけど、自粛、自粛の世の中だ。
ちなみに、俺、
そこそこの大学に通う、平凡な人間だ。
一年と二年の頃は、そこそこ楽しいキャンパスライフを送っていた。
同期で気の合う奴らとグループを組んだり。
あるいは、漫画サークルで、どうでもいいことをダベったり。
時には、徹夜で仲間同士で飲み明かすこともあった。
ただ、新型コロナによる自粛が始まり始めたのが一年前の三月。
おかげで、サークル活動も「密」になるということで、飲みは自粛。
友達同士でつるむにも、皆、「下手したら叩かれるよな」とか。
そもそも、こんな状況下で集まって飲みをやることに罪悪感があった。
ついでにいうなら、講義も最初全面リモートになった。
講義は対面で受けるのが当たり前だったから、ひどく戸惑った。
今は、Zoomと対面を選択出来るが、家で講義を受けられるのはメリット。
皆、自然と自堕落になり、友達連中でも、Zoomで講義を受けている奴が多い。
そうすると、どうなるか。まずは、講義の合間にちょっとした雑談がしづらい。
学食で飯を食いながら、今度ここ行こーぜ、とか他愛ない雑談をするだろう。
しかし、それは「皆が外に出て、講義を受けている」前提あってなのだ。
もちろん、今でもラインで友達と文字のやりとりはしている。
ただ、凄く親しいわけじゃないのに、ずっとZoomアプリを立ち上げるのも変だ。
それに、Zoomでの会話は、なんていうか、とても緊張する。
サークルの会合もZoom中心に移ったものの、発言量は大幅減。
賑やかだった奴も、オンラインだとペースをつかみかねる事も多いようだ。
サークルのムードメーカーと目されている連中も、
「Zoom落ち着かないよな。なんか違うってか」とよく愚痴っている。
俺はといえば、陽キャと陰キャの間に位置するような人間。
Zoomの方が気楽だと思うけど、何か目に見えない壁のようなものも感じる。
人によっては「カメラオフにしてたら、こっちの方がいい」という奴もいるが。
我がサークルは三十名という大所帯。
それだけが一斉に話そうとすると、音が被るので、色々遠慮してしまう。
いくつかのルームに分割する「ブレイクアウト」機能も試してみた。
しかし、適当に離合集散するオフラインの雰囲気が再現出来ない。
前置きが長いが、人恋しいのだ。
とはいえ、Zoomだと距離感が取りづらい。
そこで考えたのが、マッチングアプリだ。
この機会に同期でも始めた奴がいるらしい。
「友達作りとかでもオッケーだぜ」と勧められた。
「女性が無料とか納得行かねえ」
と愚痴りつつ、一ヶ月プランで契約した。
課金額は二千円。まあ、いいゲーム友達とか。
あるいは、ないだろうけど、恋人候補とか。
ダメ元で、それくらいなら出していいだろうと。
こうして、俺は、国内最大手マッチングアプリ
「ベアーズ」に登録する事になったのだった。
しかし、戸惑ったのは、お互いマッチングしないと会話すら始まらないのだ。
その仕様を知ったとき、マジか、と驚愕した。
だから、「この人すげえいい」とか思っても、大抵は不発に終わる。
まあ、俺は、そこまでイケメンじゃないしな。
とはいえ、大学生というのがいいのか、そこそこ「いいね」はもらえる。
ただ、三十過ぎた人とかは、「うーん」という感じでスルーした。
ちなみに、「ありがとう」を返すとマッチング成立。
晴れて、メッセージのやり取りが解禁される。
「なんか、ガチャでも引いてるみたいだよな」
ひどく失礼なことを思っているのはわかる。
しかし、「いいね」した相手から「ありがとう」はあまり帰ってこない。
逆に、「いいね」してくれた女性が年上過ぎたり、合わなそうだったりが多い。
というわけで。
とりあえず「今日のオススメ」に出てくる相手に、
ポンポンと「いいね」する戦術になった。
「お前、ひどくね?」と言われそうだけど、考えてみて欲しい。
人間、文字でも、会話を交わさなければわからない事が多い。
いくら、綺麗な写真と自己紹介があっても、盛っているかもしれない。
なら、とりあえず、「いいね」を押しまくって、マッチング確率を上げる。
んでもって、マッチングした相手と会話を開始する。
だんだん面倒くさくなって効率重視にするとそうなるのだ。
「ほんと、作業ゲーじゃないだろうか」
「いいね」を一日に押せる回数は限られている。
ソシャゲでいう体力のようなものだ。
考えるのも面倒くさくなって、ポチポチする毎日。
会話に持ち込めた女性もいるけど、何かが違う。
そんな、ある日のことだった。
『リヤさんから、ありがとうが届きました』
というベアーズの通知。
ちなみに、基本的には皆、独自のハンドルネームを名乗っている。
「リヤ」とかも、その類だ。
たまたま、「いいね」した内の一人が返してくれたのだろう。
というわけで、その相手のプロフィール写真を見ると、
「え。ええと。これって里山じゃないか?」
サークルの後輩である、
まさか、こんなところで出会ってしまうとは。
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