幻想
小春かぜね
無題
この物語はフィクションです。
設定、登場する人物、団体及び名称は一切関係有りません。
「お父さん。このくらいで良いかな?」
不安なのか、娘が料理の状態を聞いてくる。
「あぁ……上手に出来ているね。仕上げに、これを入れて―――」
「さすが、お父さん! 手慣れているね!!」
「あはは!」
「おだてたって、何も出てこないぞ~♪」
台所に美味しそうな匂いが漂う。今日の夕飯も完成間近だ。
週末は大体、娘と二人で料理を作っている。家族サービスだ。
妻は長男(6歳)と一緒にお風呂に入っている。
「あら、良い匂いね!」
「パパー」
妻と息子がちょうど、お風呂から出てきた様だ。
料理も完成して……今晩も楽しい団らんが始まる!!
……
…
・
「!!!」
「なんだ!! 今の夢は!?」
俺は“ガバッ”と起き上がる!!
「とうとう……こんな夢まで、見る様に成ってしまったか!!」
軽く横になったつもりが、いつの間にか眠ってしまった様だ……
心が急に締め付けられる。先ほどの夢の所為か……
俺は、心を落ち着かせようとするが……
『きゃははは~~』
『それいけ~~~』
『わぁ!』
『綾ちゃん。楽しいね~~♪』
外からは、子ども達の賑やかな声が聞こえて来る。
如何にも『楽しんでいるよ!』見たいな感じで……
これでは……心が落ち着くどころか、却って“いらいら”し始める。
なぜだが解らない……
「くそったれ!!」
今すぐにもベランダから『そこの
だけど思うだけで行動はしない…。本当は行動した方が良いのだろうか…?
「うぅ~~寒いな。今日も良く冷えるな…」
すきま風が体に染みる。築30年以上のボロアパート。
木造だから、この時期に成ると良く冷え込む。
「何で、飯もろくに作れないのに、俺が料理をしているんだ!!」
「娘もやけに美少女だったし……、俺見たいな所に美人の嫁さんが来るか!!!」
俺は先ほどの夢にケチを付ける。
「娘なんか当然居ないし、更には女(彼女)すら居ない。……まあ当たり前だがな」
「何処の
俺以外にいない。薄暗くなった室内で、空しく一人叫ぶ。
「……」
叫んだ事で心が落ち着いたらしく、俺は正気に戻る。
「もう、どうする事も出来ないのだよ……」
俗に言う、就職氷河期の真っ只中の時に、俺は社会に放り出された。
希望の職種にはもちろん就けず、生活のために就きたくない仕事に就いた。
しかし、待ち受けていた企業はブラック企業で有り、無給の休日出勤は当たり前!!
残業代は勿論出ない。更にはパワハラ地獄と、耐えるに耐えられない会社だった……
結局……半年で逃げるように退職し、俺は再就職を目指したが、半年で辞めた事が仇と成った事とパワハラの所為で……俺は人と、まともに会話をする事が出来にくく成ってしまった。
その影響で、正社員の道は結局開かれず、ズルズル此処まで来てしまった。
世間では『人手不足解消のために外国人を受け入れよう!』とか、空前の売り手市場とか言っているが、それは新卒者を対象にした者で有り、氷河期世代の人達は取り残されてしまっているのだ!!
一部の人間は『そんなの自己責任だ!』とか『そうは言いつつも、自分の周りはみんな就職した。お前は甘えてるだけだ!』と、厳しい言葉を言ってくる。
更に非道い人は『社会の“ごみ”だから、自○しろ!』と、とんでも無い事を言う人間もいる。
政府がこの問題をどう捉えているか知らないが、外国人の受け入れ・保護よりも、こちらの問題を解決して欲しいと俺は思う。
フリーターの中でも、You○uberやF○等で、人生を転換出来た人も居るだろうし、親の資産が潤沢な奴は、無理に働かなくても良い人も居るだろう。
しかし、そんな人間は一握りだ!
人を簡単に消す事は出来ない。
法律が変われば別だが…、そうでなければ、200万人以上の中年フリーターの大半が将来、社会保障に頼らなければ、生活出来ない人に一気に成るだろう。
考えただけでも恐ろしい……
「俺だって、出来れば生活保護の生活には成りたくはない!」
「……だけど、限界が有るんだよ…」
日本の社会は新卒主義で有り、再就職には厳しい社会だ!
ハローワークや求人サイトには多数の求人が出ているが、中年フリーターが正社員に変身出来るのは、未だに俗に言う、底辺産業ばかりだ。
学歴・高度な資格・経験が無ければ当然だと言えば当然だが、単純労働も外国人に取られてしまったら、どうしろと言うのだ!!
「体が言う事聞く内は働くが、病気にでも成ったらお終いだ!」
「風邪程度なら何とかなるが……大きな病気に成ってしまったら、それを治療するお金が無い…」
『ならば、底辺でも良いから早く正社員に成れ!』と思う人が大半だろう。
しかし、一度堕落した生活をしてしまうと、そこから抜け出すのは本当に難しい。
「俺に残された道は、このまま病気になるまでフリーターを続けるか、底辺産業でも良いからとにかく職に就くか、それとも……」
「けど……流石にそれはしたくない」
「一応、40年以上生きて来て、“ぴょん”とか“ドン”で人生終了は空しすぎる!!」
「失う物は何も無いけど、だからと言って、やりたくない職種には就きたくない!」
「結局最後は……『今のままで良いや!』で、落ち着くんだよな!」
「まあ、いいや!!」
「さて、コンビニに行って、飯と酒でも買って来よう!!」
「こんな時は食って、飲んで、アニメ動画を見て寝るだけだ!!!」
「これが、今一番の楽しみだ!!」
「先の事なんか、どうでもいい。普通の幸せは、絶対俺の所に来ないのだから!!」
「夢は夢。夢は現実には為らない……」
……
はたして、この中年男性の人生が、今後どうなるかは判らない。
何か奇跡でも起きて、生活が一変するかも知れない……
間違えないで欲しいが、これは有る一例で有り、この生活から抜け出すために、努力をしている人だって居る事を忘れないで欲しい!
恐らく、この氷河期世代問題はこの先もずっと続くだろう……
需要と供給のバランスが崩れ、どうしてもこの世代が必要だと為らない限りは……
おわり
幻想 小春かぜね @koharu_kazene
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