幼馴染みに浮気され捨てられた結果、アイドルと付き合うことになった
絢乃
第一章 無人島にアイドルが流れてきた
001 男らしさとは
まさに我が世の春だな、と思った。中学時代は。
俺こと
幼馴染みの
中学時代、俺と朱里はラブラブだった。
学校でイチャイチャ、放課後もイチャイチャ。
休みの日もイチャイチャして、高校はもちろん同じ学校を選んだ。
だが、高校に入学してから雲行きが怪しくなった。
1年の1学期が終わりへ向かうにつれて会う頻度が減ったのだ。
俺は帰宅部だが彼女は吹奏楽部。
そう考えると仕方ない部分もあった。
「ごめん、今日は部活の練習があるから」
誘ってもこうやって断られることが増えた。
2学期以降になると、学校での会話も減っていた。
この頃、朱里は髪の色を黒から赤に染めた。
俺は黒が好きだと言ったら、私は赤がいいと返された。
気まずい空気になったのをよく覚えている。
これがマンネリというものだろうか。
中1の頃から交際しているのだから無理もない。
だが、どうにかせねばならない。
そんな風に思っていたある日、俺は知ってしまった。
朱里が少し前に吹奏楽部を退部していたことを。
なのに彼女は部活が忙しいと誘いを断る。
もしかしたら他の部に移ったのだろうか。
尋ねたら、「吹奏楽部に決まってるじゃん」と言われた。
この時点で、「あー、これはアレかもしれないなぁ」と思った。
そんなこんなで2年のゴールデンウィーク。
当然のように1人で過ごしていた俺は、ふと街へ繰り出した。
そして、目撃してしまった。
朱里の浮気を。
相手は同じ高校の上級生。
女垂らしのヤリチンとして有名なイケメンだ。
その数日後――つまり今日、俺は朱里を呼び出した。
場所は俺達の家からすぐ近くの公園。
夜なので他には誰もいない。
浮気現場の写真を見せ、どういうことだと問いただした。
それに対して、彼女はあっけらかんとした様子で答えた。
「あー、気づいちゃったか。ま、見ての通りだよね」
「見ての通りって、浮気してるのか」
「うん、そうだよ」
あっさり認めやがった。
「だって仕方ないじゃん――」
朱里は言う。
「――大吉が男らしくないのが悪いんだよ」
「は?」
「それに大吉って名前もダサいし。おみくじじゃん」
その後も、いかに俺が駄目な人間なのかを延々と言われた。
男らしくない、積極性に欠ける、見た目が地味、ダサい、等々。
特に「男らしくない」というワードは頻繁に飛び出していた。
「浮気されたくないなら、浮気されない男になりなよ」
昔の朱里ならそんなことは言わなかった。
おそらくヤリチン野郎の口説き文句を引用しているのだろう。
浮気される男が悪いから気にしなくていい、とか言って誘惑するわけだ。
「私としては大吉に傷ついてほしくなかったから自然消滅してくれるのを待っていたんだけど、バレたし普通に言うね。大吉とは別れます。じゃ、またね」
朱里は悪びれる様子もなく去っていった。
◇
朱里に対して未練はない。
だが、彼女の言葉には深く傷つけられた。
――男らしくない。
――浮気されたくないなら浮気されない男になれ。
一理あるな、と思った。
今のままだと同じ轍を踏む可能性がある。
新しい彼女が出来たとして、同じ理由で浮気されたら最悪だ。
俺は既に将来を見据えていた。
「どうにかせねばならんな」
ということで、どうにかすることにした。
――――……。
「大吉、本当に大丈夫か? 島は大変じゃぞ」
「男らしくなるにはこのくらいしないと駄目なんだ」
「お前はもう十分に男らしいだろう」
「これじゃ駄目なんだよ、爺ちゃん。男らしさが足りねぇ」
夏休み、俺は爺ちゃんに頼んで船に乗せてもらった。
向かう先は爺ちゃんが所有している無人島。
2週間ほど一人で過ごして男らしさを手に入れる。
「ワシも歳じゃから毎日は来てやれんぞ」
「大丈夫さ。自力で生き残る。迎えは2週間後に頼むよ」
「2週間後ってーと……8月20日か?」
「そうそう」
こうして俺は、2週間の無人島生活を始めた。
◇
無人島といっても、何もないわけではない。
電気や水道はないものの、住居となる小屋はあった。
小屋の中には煎餅布団があり、囲炉裏だって備わっている。
食料の調達さえできれば余裕で生きていける。
その食料調達が難しいのだがな。
「この生活もあと数日か……」
今は8月17日の昼過ぎ。
これまで無事に過ごせていた。
この調子なら20日まで何の問題もないだろう。
「ずいぶんと男らしくなってきたんじゃないか」
串に刺さった鮎の塩焼きを頬張りながら海へ向かう。
喉が渇いたので、腰に装着しているヒョウタンで水分を補給する。
体がいい感じに日焼けしていて、我ながら逞しいと思った。
生え散らかっている髭もダンディで悪くない。
「さて、仕事に取りかかるか」
海辺に着いたら、砂浜で焚き火を作る。
そこへ針葉樹の葉をぶち込んで燃やす。
凄まじい量の煙が出た――狼煙だ。
この狼煙は爺ちゃんに対するメッセージになっている。
無事だから心配しなくていいよ、というもの。
狼煙がなかった場合、爺ちゃんはすぐに駆けつけてくる。
「これで問題ないな」
あとは食材を調達しながら小屋に戻るだけだ。
――と、その時だった。
「むっ」
砂浜に何かを発見した。
ゴミにしては大きすぎる。
シルエットは人に見えた。
「なんだ?」
近づいてみることにした。
ある程度の距離になったところで、俺は駆け足になる。
打ち上がっていたのが人間だったからだ。
パッと見た感じ、同い年くらいの女子である。
学生服のような格好をしているが、コスプレのようにも見えた。
スカートがフリル付きだからだろう。
髪が白銀のロングというのも、コスプレぽさに拍車を掛けていた。
「大丈夫か!」
声を掛けるも反応がない。
だが、心臓は動いていて、生きている。
とりあえず狼煙用に設置した焚き火の傍まで運んだ。
「死ぬんじゃねぇぞ」
人工呼吸をする。
「ゴボッ!」
女は盛大に水を吐いた。
それからゲホゲホとむせている。
まだ目は開いていないが、これで一難去った。
ホッと一安心。
(それにしても可愛いな)
相手は目を瞑ったままだが、それでも分かる可愛さだ。
顔のパーツがあまりにも完璧過ぎる。
蜂に刺されまくってパンパンに腫れても可愛さを維持できていそう。
「う、うぅぅぅ……」
女が意識を取り戻した。
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