【完結】愚者は異世界で友を想う
科威 架位
第一章 使徒は転移者を導きたる
第1話 プロローグ
「おい豪!ついに成績表が返ってきたな!」
「そうだな。…じゃあ、やるか!」
「よし!行くぞ…せーの!」
そして二人はお互いの成績表をみせあった。
二人は昔からの幼馴染である。家も向かい合っていて、二人とも負けず嫌いな性格からか、幼い頃から色々なことを競い合っていた。戦績は今のところ半々である。
そして今は二人とも高校三年生まで成長し、大学も別々に進むことから、この勝負が実質的に最後なのである。
お互いにとって最も大切な勝負だからか、二人とも気合が入っている。
そして、お互いの成績を見せ合った二人は…
「あああ!最後の最後に慶介に負けたああ!」
「っしゃおらあああ!みたかああああ!」
この高校は十段階評価の単位制の普通科である。二人は全教科の評価値の合計数で競っていた。
二人の評価値の合計は、豪が「104」慶介が「106」であった。
「やっぱり最後はオレの勝利になったか。豪…どんまい!」
「くっそーーーーーー!次だ!次の勝負だ!」
「は?お前、オレたち、大学別々だからもう勝負できないだろ。」
「いや!大学じゃない!将来、どっちが早く出世するかの勝負だ!」
「…ほう?良いだろう!オレが早く出世してやるわ!」
「いいや俺だ!」
「いやオレだ!」
そして二人は拳をぶつけ合って、その約束を交わした。
★★★★★
「そうか……こうして二人で登山に来るのも、これで最後になるんだな。」
それから数日後、二人はある山に登山に来ていた。お互い大きなリュックを背負い、靴や服も全て準備万端の状態だ。登山道を歩きながら豪はそんなことをぼやき、深呼吸をするように大きなため息をつく。
「今までいろんなことやったよなぁ。警察沙汰になったこともあるもんな。」
「それは九割くらい慶介のせいだろ! 夏休み中に二人で日本列島縦断しようってなった時、お前のせいで夏休み中に家に帰ることができなくなったんだぞ!」
「おいおい、声を上げると熊が寄ってくるぞ? というか、お前も乗り気だったじゃねぇか。」
「いやまあ、そりゃそうなんだけどさ────」
二人は適当に話をしながら、着々と登山道を上っていく。この山は二人にとって、何度も登って慣れている山なので、足取りには一切迷いが無かった。
そして暫く登り続け、慶介が気付いたように声を上げる。
「って、なんか雨降りそうじゃね?」
それに反応するように、豪は空を見上げる。空は暗雲が立ち込め、先程まで出ていた太陽は身を隠していた。
「本当だ。天気予報は晴れだったよな?」
「そのはずだけどなぁ。仕方ねぇ、降る前にどっかで雨宿りするか。」
二人は近くにあった洞窟に入る。すると次第にぽつぽつと雨が降り始め、徐々に強くなっていった雨は豪雨へと変わった。
岩や地面の土に雨粒が強く叩きつけられる。次第に地面はぬかるんでいき、あちこちに水たまりができ始める。
「うっわー……こりゃあ、すぐには止みそうにないな。」
「マジかよ⁉ ここら辺熊出るんだぞ! あんまり長居する訳にはいかないぞ!」
「そうだよなぁ、やばいよなぁ……」
慶介は悩み、洞窟内の岩に腰を掛けながら熟考する。豪はと言うと寒さに震えており、冷静さを欠いている様子だった。
「まあ、止むまで待つしかないな。取り敢えず休もうぜ。」
「マジ? こんな状況で休めるのかよ。」
「大丈夫大丈夫。何とかなるさ。」
そう言って、慶介は岩の上で眠りについた。豪はそんな彼の様子に困惑し、慌てて近寄って慶介の顔を覗き込む。
「本当に寝てやがる……はぁ、俺も寝るか。」
どちらにしろ、豪雨の中登山はできないと考えた豪は、自身も丁度いい岩に寝そべって眠りについた。
★★★★★
「んん……あ、晴れてる。」
目を覚ますと、洞窟の入口からは太陽の光が差し込んでいた。雨が止んだのだと考えた豪は、眠っている自分の体を起こし、地面に置いていたバッグを手に取ろうとする。
「あれ、リュックが無い────」
「豪! 起きたか! 逃げるぞ!」
「慶介、そんなに慌ててどうしたんだ?────って、なんで俺洞窟の外の地べたで寝てんだ?」
見ると、自分の体は洞窟の外にある木の下に移動していた。地面の上で横になっていたせいで、豪の聞ていた上着には濡れた土が大量に付着している。
「あの洞窟、熊の住処だったみたいなんだよ。熊が近付いてくる気配がしたからお前を背負っていち早くこの場所に移動したんだ。」
「えぇっ⁉ じゃあ荷物は⁉」
「諦めろ。良いから早く────」
次の瞬間、洞窟から出てきた熊が唸り声を上げながらこちらを睨む。豪は何とか立ちあがるも、足がすくんで恐怖で動けなくなる。
「見つかったか……!」
「な、なぁ、最近この山で人食い熊が出現してるって噂があったよな?」
「え?」
豪は噂で聞いた事を思い出す。アウトドアを楽しんでいた四人の家族が、一匹の熊に全員捕食されたという噂だ。まだニュースにもなっていないし、どこの家族かも分かっていないが、確かに近所のある一家を見なくなったような気がしていた。
「おま、それ、まさか────」
「は、早く逃げようぜ! 走って逃げれば────」
「逃げられるわけないだろ! 熊の走る速度は人間よりも速いんだぞ! しかも地面はこの有様だ!」
慶介は声を荒げ、背中を向けて逃げようとする豪を引き留める。熊は唸り声を上げながら、徐々に二人へと近付いていっていた。
「お、おい! どうするんだよ!」
「────よし、慶介! 全力で走って山を下りろ! 幸いそんなに高く山を登った訳じゃないから、麓までの距離は五キロも無い筈だ! お前なら、それ位は全力疾走で駆け抜けられるだろ!」
「え、お前はどうするんだよ⁉」
「俺は熊を撃退する方法を知ってる! だから、それをやってからお前を追う! だから、早く行け!」
冷静な豪であれば、慶介のこの言葉が嘘だと見抜くことができた。しかし、今の彼は冷静さを欠いていたため、その言葉を信じて熊から踵を返す。
「気を付けろよ!」
「ああ、大丈夫だ!」
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