第25話 女勇者たちの動向

「うわ〜! どこまでも青いのね〜!」


「風が気持ちいいです〜!」


 船が出港してから、リリスとフェリスは大興奮だ。

 ずっと樹海で暮らしていれば、船など乗ったこともなかったので当然か。


「リリス、フェリス、危ないから身を乗り出しちゃいけないよ?」


「「は〜い!」」


 ティオに元気に応えつつ、二人とも身を乗り出している。

 羽のあるリリスはともかく、飛べないフェリスは危ないので、ティオは後ろから抱っこしてやる。


「あ〜! フェリスったらずるい! 私も〜!」


 そう言って、リリスがティオの頭にちょこんと座る。


「すっかり二人に気に入られてしまいましたね、ティオ様?」


「ほんと、マスターの優しいところ、好きよ」


 アイリスとベルゼビュートが、ティオの左右から寄り添ってくる。

 エルフに魔王(仮)に妖精……つくづく異種族に愛される少年である。


 数時間後――


「ティオ様、よろしければ、そろそろお昼などいかかでしょうか?」


 ティオが船のデッキで、リリスたちと遊んでやっていると、乗組員の一人が声をかけてくる。


 船旅ではしゃぎすぎて気づかなかったが、そんな時間になっていたようだ。


 せっかくの船旅だからということで、乗組員たちが船のデッキに席を用意してくれるらしい。


 緩やかな風を浴びながら、海上ランチと洒落込むわけだ。


「これは……とても美味しそうですね」


 席に着いたアイリスが思わず声を漏らす。


 テーブルの上には、魚のカルパッチョや、魚介のスープ、それに大型の海老のグリルなど、様々な海の幸が並べられていたのだ。


「全部今朝漁れたものです。新鮮な海の幸をご堪能ください」


 そう言って、乗組員は作業に戻っていった。

 本来なら、付きっきりで世話を見るのだろうが、それではティオたちが緊張してしまうだろうと、あえて近くから離れたのだろう。

 さすが侯爵家に雇われた乗組員である。


「うわ! この海老っていうんだっけ……? すっごく美味しいわ!」


「スープも最高です〜!」


 リリスとフェリスがまたもやはしゃぐ。


 海老はバターソース、それにレモンで味付けされており、シンプルながら素材の味を楽しむことができる。身はしっかりと弾力があり、食感が心地よい。


 スープはトマトと一緒にいくつもの魚介が煮込まれており、魚の旨味と、トマトの甘みと酸味が程よい塩梅だ。


 ティオとリリス、それにベルゼビュートも、他の料理に舌鼓を打つ。

 新鮮な魚介に美しい海の景色、そしてこの時のために船を停めてくれたようで、風も緩やかで気持ちいい。


 最高の海上ランチである。


 ◆


 バーレイブ王国の隣国、リラン公国のとある村、その宿屋にて――


「ティオを追放した? どういうことです、勇者様……?」


「そうだよ! ティオくんを追い出すなんて! いったいどういうつもり!?」


 女勇者――アイラを、二人の少女が問い詰めていた。


 前者の名は〝ラティナス〟――

 長身で、白の長髪をした物静かそうな少女だ。

 このパーティの一員であり、クラスは〝賢者〟である。


 そして、後者の名は〝エイル〟――

 身長は低く、どこか幼い……いわゆるロリ顔と、明るいブラウンの髪を持った少女。

 ラティナスと同じくこのパーティの一員であり、クラスは〝召喚士〟である。


 ここしばらく、二人はアイラたちと別行動を取っていた。


 二人の知らぬ間にティオがパーティ追放となっていた……。

 そんな事実を、集合予定地であるこの宿屋でたった今聞かされたわけである。


「二人とも、落ち着け。アイラ様が困ってらっしゃるだろう」


 ラティナスとエイルを宥めようと、白魔術士――ルシウスが割って入る。

 しかし、その表情はどこか楽しげだ。


「そう……そういうことですか」


 細めた瞳でルシウスを睨みながら、ラティナスが言う。


「え? どういうこと、ラティナス!?」


「エイル、多分だけど……ティオをパーティから追放するように、ルシウスが勇者様に進言したのよ」


「えぇ!? どうしてそんなこと!」


 ラティナスの言葉に驚きつつも、今度はルシウスに詰め寄るエイル。

 そんな二人を、ルシウスは「ふん……っ」と、鼻で笑いソッポを向く。


「答える気がないならいいです。勇者様に聞きますから」


「アイラ様! どうしてティオくんを追放なんてしたの!?」


 ラティナスとエイルが、再びアイラに尋ねる。


「それは、ティオが足手まといだったからよ……」


 俯きながら、アイラが答える。

 膝に置いた両手が、僅かに震えているのを、ラティナスは見逃さなかった。


「足手まといですか、とてもそれだけが理由とは思えませんが……いいでしょう。本当のことを言う気になったら、話してください」


「え!? 本当のことって、どういうこと? ラティナ〜!」


 アイラが何かを隠していることに気づいたラティナス。

 それとは反対に、何から何までわからないエイルが、頭を抱えて叫ぶ。


「それより、次の目的地を伝えるわ」


 話はここまで――

 そういった雰囲気で、アイラが切り出す。


「次の目的地はバーレイブ王国よ。国王様直々の呼び出しらしいから、心しなさい」


 と――。

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