第18話 二人の妖精
「ま、まさか、妖精……?」
歪みの中から現れた二つの存在に、ティオは目を見開く。
そんなティオに――
「そうよ! 私はピクシーの〝リリス〟っていうの!」
「私はドライアドの〝フェリス〟といいます〜!」
――そんな風に、現れた存在……二人の少女が答える。
リリスと名乗ったのは、人の手のひらほどの大きさをした少女だ。
髪はピンクのショートヘア、その背中からは羽が生えている。
そしてフェリスと名乗ったのはティオの背丈の半分ほどの少女だ。
髪は薄い緑のロングヘアである。
ピクシーにドライアド、森林や迷宮に住む、妖精族と呼ばれる種族の一種であり、イタズラ好きとしても知られている。
「ねぇ、人間。これってなぁに?」
「とっても黒くて大きいです〜!」
リリスとフェリスと名乗る妖精二人が、ベヒーモスを興味深げに見ている。
【吾輩の名はベヒーモス、ティオ殿の使い魔にして、戦闘モービルである】
「うわ!?」
「しゃ、喋ったです〜!」
声を発したベヒーモスに、リリスとフェリスは大興奮だ。
「二人とも、少し聞きたいんだけど……」
突如現れた妖精二人に、警戒していたティオだったが、その無邪気な様子を見て脱力しつつも二人に問いかける。
「ん? なぁに、人間?」
「面白いものを見せてもらったお礼に、答えられる範囲でなんでも答えます〜!」
「二人とも、モンスターを倒したところで声をかけてきたよね? 試練って言ってたけど、それってどういう意味?」
歪みから出てきたこと、そして戦闘後に聞こえた二人の言葉の意味が気になるところなので聞いてみる。
するとリリスとフェリスからこんな答えが返ってきた。
「私たちは強い人間を探しているの!」
「一緒に旅をしてもらいたのです〜!」
旅……?
いったいどういうことだろうか。
ティオがその辺の説明を求めると、こんな答えが返ってきた。
「実は、私たちは〝ルミルスの大樹海〟に住んでいたの」
「でもある日、〝魔族〟が現れて、時空魔法を発動したのです〜……」
その魔族の発動した時空魔法に巻き込まれ、気づけば二人はこの迷宮の中に転移していたという。
そして、もとの居場所に戻るために、一緒に旅をし、守ってくれる存在を探していた。
そのために自分たちの能力を使い、迷宮のモンスターを冒険者の前に出現させ、力を試していたという。
力を試すだけで、命が危ないと判断したら、モンスターはもとの階層に戻すつもりだったとのことだ。
「力試しはわかったけど、そんなことをして一緒に旅してくれるとは限らないよ?」
少し呆れた顔をしながら、ティオが二人に言う。
妖精族は稀少な存在であり、褒められたことではないが、人間が捕まえ売買することもある。
彼女たちの言う力試し――試練に打ち勝つことができた人間が現れたとしても、二人に協力するどころか、捕らえようとする者も出てくるかもしれないのだ。
「それなら大丈夫よ、妖精族の勘は鋭いんだから!」
「リリスの言う通りです〜! 妖精族は人の善悪をある程度見極めることができるのです〜!」
ティオの周りをクルクルと駆け回りながら、リリスとフェリスが答える。
さっきまでの緊張感が何処へやら、ティオは思わず笑みを浮かべてしまう。
それだけ、この二人の妖精が無邪気なのだ。
「ねぇ人間、私たちをルミルスの大森林まで送ってくれない?」
「もし送ってくれたら、しっかりお礼をします〜!」
どうやら、ティオを自分たちの旅に同行させるべき実力者と判断したようだ。
ワクワクした様子で、ティオに尋ねてくる。
【ティオ殿、引き受けてもいいのではないか?】
「どういうことだ、ベヒーモス?」
【ピクシーとドライアドは、イタズラ好きではあるが悪しき存在ではない。それに、妖精族は一緒にいる者に富と繁栄をもたらすと言われている】
ベヒーモスの言葉に、ティオは(なるほど……)と納得する。
妖精族に好かれた者は富と繁栄を――
そんな言い伝えを、ティオも聞いたことがある。
ベヒーモスの言う通り、二人からは邪悪な気配を感じない。
むしろ、警戒心がなさすぎて不安になるほどだ。
(ぼくの目的は自分なりに救世の旅を続けることだ。二人が困っているのなら助けてあげてもいいんじゃないか? それに、二人の言っていた時空魔法を使う魔族のことも気になるし……)
思案顔になるティオ。
そんなティオの様子を見て、リリスとフェリスが不安そうな表情を浮かべる。
「ここで考えていても仕方ない、とりあえず都市に戻るとしよう。二人とも、ついてきてくれるかな?」
「もちろんよ!」
「せっかく手に入れたチャンスを逃したくありません〜!」
ティオの言葉に「わ〜い!」と嬉しそうに答えるリリスとフェリス。
二人を連れて、ティオは迷宮を後にする。
これで迷宮の異変は解決し、ギルドで受けたクエストも成功になるだろう。
あとはアイリスとベルゼビュートにこの件を相談し、どうするか決めるとする。
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