第9話 猫耳ロリ娘

「んふふ〜、ティオ様ぁ〜」


「ア、アイリスさん、しっかり歩いてください……」


 帰り道――


 しなだれかかってくるアイリスに、ティオは困っていた。


 ティオとパーティが組めたのがよっぽど嬉しかったのだろう。

 アイリスの酒は進み、気づけば酔っ払い剣姫の出来上がりというわけである。


 何とか彼女と肩を組み、宿屋までたどり着いたティオ。

 彼女をベッドに寝かせ、自分も部屋に戻ろうとする……のだが――


「ティオ様、捕まえましたぁ〜!」


「うわぁ!?」


 背を向けたところで、後ろから抱きついてくるアイリス。

 そのまま後ろに体重を乗せて、ティオとともにベッドに倒れ込んでしまう。


「ふふふ〜、逃がしません!」


「んむぅ〜〜〜〜!?」


 ベッドに倒れ込むと、アイリスはティオを抱きしめ、またもや彼の顔を強制メロンダイブさせてしまう。


 柔らかな感触の下で、ティオはジタバタするのだが――途中でそれをやめる。

 見れば、アイリスが静かに寝息を立て始めているではないか。


(う、動けない……)


 彼女を起こさぬように、静かに抜け出そうとするのだが、がっちりとホールドされており、身動きが取れない。


「ティオ様、好き……」


 寝言でそんなことを言うアイリス。

 その表情をとても幸せそうだ。


(まぁ、今日くらいはいいかな……?)


 アイリスの表情を見て、ティオは抜け出すのを諦めることにする。

 こんな嬉しそうな表情をされてしまっては、それも致し方あるまい――


 ◆


 翌朝――


「うぅ……昨日はすみませんでした……」


 朝食の席で、アイリスが頭を下げる。

 どうやら酔っ払って迷惑をかけてしまったことが恥ずかしかったようだ。


「まぁまぁ、過ぎたことですから。でも、飲み過ぎには注意ですよ?」


 ティオは苦笑しながらも、アイリスを軽く嗜める。


 アイリスはそれに「はい……」と恥ずかしげに答える。

 シラフの時のスキンシップは大丈夫でも、前後不覚でやらかしてしまったことはダメなようだ。


「ティオ様、今日も迷宮に行くのですか?」


「そうですね。ですがその前に武具店に行こうと思います。黒魔術士にクラスチェンジしたものの、〝魔制具〟を買うのを忘れていたので」


「あ、そういえば、ティオ様は何も武器を持ってませんでしたね。……というか、魔制具なしであの発動スピードなのですか!?」


 驚いた声を上げるアイリス。


 魔制具とは、魔法系のスキルを使う際に、その発動スピードを底上げしてくれる特殊な武具の総称だ。杖はもちろん、剣や槍など、その種類は様々である。


 そんな魔制具なしで、レッサードラゴンが反応できないようなスピードを誇る魔法スキルを放っていた事実に、アイリスは驚いているわけである。


 朝食を終え、身支度を整えると、二人は都市の武具店へと向かう。


 ◆


「んにゃ〜! 武具店ヴァルにようこそですにゃ〜ん!」


 目的の武具店へと入ると、そんな明るい声が聞こえてくる。

 声のした方を見ると、一人の少女が歩いてきた。


「おはようございます、〝ヴァル〟さん」


「おはようございますにゃん、アイリスさん! ところでそちらのお方は……? アイリスさんが人を連れてくるなんて珍しいですにゃん!」


「ヴァルさん、こちらのお方はティオ様といって、わたしの冒険者仲間となった方です」


「ティオといいます、よろしくお願いします」


 アイリスの紹介を受け、目の前の少女に挨拶するティオ。

 そんなティオに目の前の少女も自己紹介をする。


「私はこの店の店主と鍛治士を兼任してる〝ヴァル〟っていいますにゃん! よろしくお願いしますにゃ〜!」


 天真爛漫、といった様子のヴァル。


 そんな彼女の肌は薄い褐色。

 格好は何と大胆な素肌にオーバーオールを着たのみだ。

 アイリスほどではないがそれなりに実っており、艶のある横乳が大サービス状態だ。


 髪の色は色素の濃い金髪でショートヘアであり、その頭の上で猫のような耳がピコピコと動いている。


(なるほど、〝虎耳族〟か)


 彼女の容姿を見て、ティオはすぐにそのことに気づく。


 虎耳族とは、虎の血を宿した珍しい種族のことをいう。

 その力は通常の人族の数倍を誇り、重労働の鍛治士はうってつけの職業だろう。

 鍛治士をするには随分と幼い見た目をしているが、虎耳族であればそれも納得だ。


「それで、今日はどのようなものが入り用ですにゃん?」


「魔制具を買いに来ました。できれば長杖があるとありがたいのですが……」


「それならお任せくださいですにゃん! 今持ってきますにゃん!」


 そう言って、奥へと引っ込んでいくヴァル。

 そして少しすると、胸にいくつかの長杖を運んできた。


「……? これだけ金属製なのですね」


「お目が高いですにゃん! それは〝ヤドリギ〟を芯に埋めて、鉄でコーティングした特別製ですにゃ。先端が尖っているから刺突にも使えますにゃん!」


 ティオが一本の銀色の杖に興味を示すと、ヴァルがそんな風に説明を為す。


 このような杖を見るのは、ティオは初めてだ。

 さらに話を聞くと、彼女の師匠から教わった特別な製法で作ったものとのことだ。


「うん、魔力の収束スピードも悪くないですね。これにします」


「お買い上げありがとうございますにゃん! ところで、サブの魔制具として、短杖もいかがですにゃ? 実はオススメがありますにゃん!」


 そう言って、ヴァルがいきなり自分の胸の谷間に指を突っ込んだ。

 突然の、それも大胆な行動に、思わず「……っ!?」と息を漏らすティオ。


 胸の谷間から指を出すヴァル。

 すると胸の谷間から一本の短杖が現れたではないか。


 どうやら長杖を持ってくるので、両手が塞がっていたから、そこに収納してきたようだ。


「どうぞお試しくださいですにゃん♪」


「え、あの……え?」


 胸の谷間をキュッと締めて、ティオに近づけてくるヴァル。


 まさかここから杖を取れということだろうか……。と、ティオが戦慄を覚えていると――


「ヴァルさん! ティオ様をからかわないでください!」


 ――アイリスが若干イラっとした表情で声を荒げる。


 そんなアイリスに、ヴァルは「えへへ、バレちゃったにゃん♪」と、舌を出してみせる。


 どうやら純粋そうなティオの反応を見て楽しんでいたようだ。

 見た目は可愛らしいロリっ娘だというに、なかなかいい性格をしている。


 そんなヴァルに苦笑しながら、ティオはメインの長杖が使えなくなった時のサブウェポンとして、短杖も購入することとする。


 ちなみに、なおもヴァルが胸の谷間から短杖を渡そうとするものだから、アイリスが「他の短杖を用意してください!」と、全力で阻止しにいく――。

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