第2話 EXスキル
「き、騎士から黒魔術士にジョブチェンジですって!?」
ギルドの受付嬢が、素っ頓狂な声を上げる。
それを聞いていた周りの冒険者たちが――
「おい、今の聞いたか?」
「ああ。それに、あれは確か女勇者様のところの少年騎士じゃなかったか……?」
「なんでも、噂では勇者パーティをクビになったらしいぜ」
「ああ……クビになったショックで気でも狂っちまったのかな」
――コソコソとそんなやり取りを交わす。
恐らく、ルシウスが酒場かどこかで、ティオがクビになったことを触れ回ったのだろう。
ティオの耳にも、そんな声は聞こえていたが、とにかく黒魔術士へとクラスチェンジしたいと、受付嬢に何度も訴える。
すると受付嬢も諦めたのか「それでは、こちらへどうぞ……」と、ティオを可哀想な目で見つめながら、別の部屋へと案内する。
移動した部屋の中央にはポツンと不思議な色をした水晶玉の置かれた机がある。
この水晶玉に手を触れ、魔力を注ぐことでクラスチェンジを果たすことができる。
水晶玉に手を触れるティオ。
すると頭の中に、黒魔術士のクラスの名が浮かび上がってくる。
そして次の瞬間、水晶玉とティオの体が光り始めた。
「よし、クラスチェンジ完了だ……!」
静かに喜びの声を上げるティオ。
そんなティオを、受付嬢は、やはり哀れんだ瞳で見つめるのだった。
「まずは〝ポーション〟を買わなきゃ!」
受付嬢の視線など意に介さず、部屋を出てギルドの購買へと向かうティオ。
そこでありったけのポーションを買い込む。
ポーションとは、欠損を除いた怪我を治癒することができる魔法薬だ。
怪我の治癒の他に、使用者の持つ魔力を回復させることもできる。
ポーションの入った紙袋を胸に抱え、ティオはギルドを飛び出そう……としたその時だった――
ティオは一人の少女とぶつかりそうになり、慌てて避ける。
そんなティオを、少女は蔑んだかのような眼差しで一瞥すると「勇者パーティを追放された挙句、黒魔術士にクラスチェンジするなんて……哀れですね」と言い残し、そのまま立ち去っていた。
「うひゃ〜、相変わらず〝剣姫〟様はこえーなぁ」
「しかも、すげー馬鹿にした目で見てたよな」
「剣姫様、見た目はめちゃくちゃ可愛いのになぁ……」
今の出来事を見ていた冒険者たちが、そんなやり取りを交わす。
ティオを蔑んだ少女……彼女の名は〝アイリス〟――
女勇者と同じく、超級に位置する〝剣聖〟のクラスを持つ、冒険者のエルフの少女だ。
シルバーブロンドの腰まである髪、白磁の肌、アイスブルーの瞳、ビスクドールと見間違えるような美少女だ。
ちなみに、とんでもなく大きな二つの果実を持っている。俗にいう爆乳というやつである。
救世の旅路の途中で、この都市――グラッドストーンに来て一週間ほどになる。
ティオが彼女を見る機会は数回あったが、そのあまりの美しさには今でも見惚れてしまう。
そんな彼女に侮蔑の眼差しを向けられる……。
普通であったらショックを受けそうなものではあるが、今のティオにはそんなものは気にならない。
それよりも、早く次の行動に移りたくてたまらないのだ。
改めてギルドから飛び出すと、ティオはこの都市の市場へと駆けていく。
◆
(よし、まずはあそこでいいかな)
市場の青果店を見つけ、足早に近づいていくティオ。
「いらっしゃい! 今日はリンゴがオススメだよ!」
店主と思しき人物が、ティオに声をかけてくる。
ティオは「そうなんですねー」などと、適当に返事をしながら果物を一つ掴む。
そして周りに聞こえないほど小さな声で「《ブラックドレイン》……」と、呟く。
黒魔術士の持つ下級スキル《ブラックドレイン》――
対象の生命力を極々微量発動者へと吸収する効果を持つスキルだ。
黒魔術士になった時に備わる唯一のスキルであり、あまりに弱すぎるため、発動の対象にされた者は、スキルを行使されたことにすら気づかないこともしばしばだ。
黒魔術士は、成長してもこれと同じようなスキルしか習得することができない。
それこそが、黒魔術士が底辺職だと世間から蔑まれ、虐げられる理由である。
果物からごく僅かな生命力を吸収したティオ。
するとそのまま、袋からポーションを取り出し、少しだけ口にする。
今使った《ブラックドレイン》は効果が弱ければ消費する魔力量も少なく、少しポーションを飲んだだけで魔力は全回復だ。
(こいつは何をやっているのだろう……?)
そんな目でティオを見つつも、果物を吟味しているような動作をしているので、他の客の呼び込みを始める。
ティオはそのまま、《ブラックドレイン》をこっそり使ってはポーションを飲み、また別の果物に《ブラックドレイン》を使ってはポーションを飲んで魔力を全回復するのを繰り返す。
店の果物全種類にそれを行なったところで、ティオはオススメされたリンゴを購入すると、別の店へと移り……先ほどと同じようなことを繰り返すのだった――
◆
翌日――
(よし、これで最後だな!)
この二日間で、野菜や果物、動物、虫、草花など、あらゆる生命力を持つものに《ブラックドレイン》を使用してきたティオ。
今、彼が手にしている果物は、生命力を吸収する666種類目になる。
高揚した気分で《ブラックドレイン》を発動するティオ。
すると彼の中に、新たな力が芽生えた感覚が走り抜けた。
黒魔術士にクラスチェンジしたティオ。
彼が持っているスキルは最初から備わっていた《ブラックドレイン》のみだった。
しかし、そうはならないはずだ。
それを確認すべく、ティオは、クラスを持つ者なら誰でも持つ技能……
すると、彼の頭の中に以下のような項目が展開する。
==============================
名前:ティオ
種族:人間
スキル:《ブラックドレイン》
【NEW】EXスキル:《ブラックバレット》《ブラックジャベリン》《ブラックストレージ》
==============================
(よし! 前世の記憶通り〝EXスキル〟が表示されたぞ、それも三つも!)
ティオは心の中で小さくガッツポーズする。
通常、スキルにはクラスと同じく、大きく分けて四つのスキルが存在する。
下級スキル、中級スキル、上級スキル、超級スキルの四つだ。
しかし、今のティオのステータスには、そのどれでもない、EXスキルの項目が表示されている。
黒魔術士はスキルを極めれば最強クラスになり得る――
今目覚めたティオのEXスキルは、その足がかりとなる。
これらのスキルを極めれば、超級スキルを超えるような、最強のスキルの数々が手に入るのだ。
そして、今目覚めた三つのEXスキルに目覚める条件、それは――
黒魔術士が最初に得るスキル《ブラックドレイン》を、魔力が全回復した状態で使い、666種類の生命力を吸収する。
――以上だ。
魔力消費がほとんどない《ブラックドレイン》――
それを、魔力を全回復させてから使おうなどとは、ほとんどの者は思わない。
そもそも、黒魔術士しかクラスに選択肢がなかった時点で、戦いの道を諦めるのが普通だ。
そんなわけで、魔力を全回復した状態で《ブラックドレイン》を666回使うなどという条件を達成する者は、今まで魔導王シュバルツと、その転生者であるティオくらいしか現れなかったのである。
「よし、さっそくスキルを鍛えるために〝迷宮〟に行こう!」
この都市の近郊には迷宮と呼ばれるモンスターの巣窟がある。
ティオは手に入れたEXスキルを極め、派生させるべく、モンスター相手に戦おうというわけである。
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