第9話 みらない騎士

Side 王国の騎士


この都市の命令系統は領主様が握っている。

その下には7人の貴族様がいて、長老を担っている。

判断の難しい議題になると長老達と議論をするみたいだ。

詳しくは市民には公表されていない。

風の噂って所だ。

今回なかなか方針が決まらなかったのには訳があるらしい。

どうも一般的には迷宮は冒険者ギルドの管轄になるらしく、王国としても矢面に立つ彼らをないがしろには出来ないようだ。


しかし都市としても、メンツがあるらしい。

難しい話はわからないが、そういう理由から保留が長引いている様子。

ちなみにこれも風の噂だ。

今回の命令はどうやら、どなたかの貴族様からだ。


王都近くに出来た迷宮を消滅とす。

ダンジョンコアを壊し持ち帰るように。


という内容が下る。

構成員はどうしても成り立ての騎士になってしまう。

初期の迷宮はレベル5以下じぁないと入れないのだ。

構成員は50人。

武器防具を優遇してくれるようだ。

迷宮内部は基本的に狭く深くなる傾向が強い。

一般的な考え方としては、少人数でパーティー単位のほうが、大人数より良いとされているが、騎士になるような者は誰でも迷宮の中に入った事もあると思う。

レベル上げや経験を積むために。

名前の付いたダンジョンは、別物として扱われるが、小さい迷宮は小遣い稼ぎやレベル上げにちょうどいい。

それと魔獣だが生命を搾取する行為への馴れを身に付けにいかなければならない。

騎士になって出来ませんでは、お話にならないのだ。


5人1組でチームを組み、リーダーを決める。

皆同じぐらいの力量のため少し難航したが、ようやく全組決まったようだ。

昇格もあり得るかもしれないから誰だってリーダーをしたい。

一緒に騎士団に入った同僚からは羨ましがられた。

彼はレベル6でダンジョンには入れないのだ。

運のないやつだ。


今回の作戦としては、分かれ道が来た時点で半分に別れる、を繰り返すようだ。

偶数組を作るように進む。

時間としては半日してダンジョンコアがなければ、作戦失敗とし戻ってくる事になっていた。

この時は、まだ誰も危機感はなかった。

まだ出来立ての迷宮だ。

ゴブリンやスライムなどが多くいて、それらを切り伏せながら進みダンジョンコアを壊す。

楽な仕事だ。

低ランクの魔獣は本当に弱い。

1対1でやれば2、3回の攻防で決着がつく。

それが5人一組。

楽な仕事だろう。


いくら自分達が騎士みらないだろうが、騎士は騎士なのだ。剣術の覚えや日々の訓練がある。

武器も防具もある。負けるわけがない。

そう誰もが思っていた。

作戦が開始されダンジョン内部に入る。

相変わらずダンジョンの中は異様な空気だ。

薄く光るコケが幻想的な雰囲気を演出してる。

何が飛び足すかわかったものではない。

しかもなぜか下が水に浸かっている。

高さは30センチ位に思う。

動きを阻害されそうだ。

絶対安全だと思ってる気持ちを少し切り替えよう。

慎重に進む。

どうしても50人もいるとごちゃごちゃして身動きが取りにくい。

甲冑が邪魔だ。

ぞろぞろ行進してしまうのは仕方ないだろう。

ダンジョン内に入り数分経ち、そんな事を考えていた時だったと思う。

前で異変が起きた。


「全体、とまれー!」


前列に程近い所から大声が聞こえた。

前列がガヤガヤ言っている。

なんだろうか?

自分達はほぼ最後尾で最前列まで30メートルぐらいはある所にいる。

迷宮内は3人並ぶとちょっと狭いってぐらいの広さ感だ。

余裕をみて2人で並んでいる。

どうやら罠にはまって抜け出せないらしい。

おいおい、大丈夫か?

見に行きたいが前が詰まっている。

どうしようもない。

それから数分がたち、行進が開始された。


前からの情報だと2人殉職したらしい。

そして人一人入る落とし穴があり、足元に気を付けろ。ポイズンバットを確認、との話が回ってきた。


なんだそれ?

あっけなさ過ぎるだろ。

一端迷宮から出て体制を立て直した方がよくないか?

でもここにいるのは下っ腹ばかりだ。

こんな所でおめおめ逃げ帰る事は出来ない。

王国の騎士はそんな甘くないのだ。

なんとしても武功を立て成り上がってやる。

ってやつばかりだ。

引く事は出来なかった。

迷宮で死亡したら体も残らない。

迷宮に飲み込まれるように消えてなくなる。

自身が身に着けていた物だけそこに残る。

そんな死に方は誰もしたくないだろう。

本当に下には気を付けよう。


そこからさらに進みようやく分かれ道に差し掛かった。

上記の通り別れて進む。

24人になり少し余裕が出た。

1人は欠員として前の部隊に吸収された。

分かれ道を進み小部屋に入る。

開けた所に出たこともあり休憩の様子だ。

状況を聞こう。


どうやら落とし穴があったり、そこに1人はまり、助けようとしてもう1人殉職したようだ。

落とし穴の中にはスライムが多く生息していて手が出せなかったようだ。

しかも狭い落とし穴に大人二人も入れば一杯一杯だ。 四苦八苦してるうちに迷宮に飲まれたようだ。


その後2人がいなくなり、スライムを掃討したようだが、穴の中には入れないから、少し時間がかかったようだ。

って事でが真相らしい。


そんな事があったのか。

スライムと水がそんな狂暴になるとは誰が思うか。 スライムはゴブリンと同じ最弱種だ。

武器も使わず蹴って討伐できる魔獣で有名なぐらいだ。

この迷宮は何かおかしい。

ようやく全員が認識を改めた所で行軍を再開する。

再開してすぐに人数が少ない気がした。


「待ってくれ!人数が減ってないか!?」


「そんなことはないだろう。まさか!?」


「1、2、3、4、22…」


「2人もへってやがる」


すぐ小部屋を調べた。

そしたら穴2つ。

なにが蠢いてやがる。

これは確かに助けにはいけなかったのも頷ける。


くそ。

休憩したのが間違いだったか、確かに下が水浸しだから座る事もできねぇ。

時間をかけ、情報の共有が仇になると。

一回も戦闘もしず4人も殉職するとは。

やりきれねぇ!


「進もう。このダンジョンは消してしまった方が同胞のためだ」


「ああ」


皆の顔も怒りの形相である。

それから罠にはすこぶる注意して進む事で、なんとか次の部屋までこれた。

これまでの行軍とは違い、用心深くゆっくり進む。

数十分してたどり着いた部屋は、大部屋だった。


池だ。

いや池か?

大部屋の中心にはでかい穴が空いてやがる。

迂回して進むしかないか。

行軍し中場まで差し掛かった所で池に変化が起きた。

水が跳ねるような音だ。

何かが接近している。


「全員、剣を抜け!応戦するぞ!」

「おお!!」

池を迂回する道は狭く人一人がやっと通れる程度の大きさだ。縦一列の行軍になる。

出来たらもっと広く、間隔の空いた場所や足場がいい所が良かったが今さらだ。

池を滑るように接近する数10以上。

まだ姿は現さない。

すぐそこだ。交差する際に倒す!

池の中心に魔方陣が5つほど見えた。

やばい!


「全員、池の中心に集中…」


遅かった。

魔方陣が完成し、水の弾丸が飛んどくる。

なんとか回避し、追撃をする。

接近していたのはスライムだった。

目の前だ。

間に合えっ!!

自身とスライムの間に剣を差し込む。

なんを逃れる。

スライム達の注意するポイントはスキルだ。

接触されたら酷い痛みを感じ、助けを借りないとスライムから脱する事が出来ない。


「グァワー!!」


「誰かだずげでぐれー!!ズライムに取りつがれだ!」


「また魔方陣だ!魔法がくるぞー!」


ここからは繰り返し同じ手法で攻めてくる。

防戦一方だ。

スライムに取りつかれた仲間達は、引きずられ池の中に連れ込まれ消えた。

くそ!じり貧だ。


「一端引くぞ!さっきの坑道まで戻れー!」


ゆっくり後退しつつ、坑道まで戻る事が出来た。

奴等は我々が坑道に入ると潮が引くよう去っていった。

池に近づかなければ襲って来ないのかもしれない。

下が水浸しだろうがなんだろうが、腰をつけ一息つく。

人数は10人まで減っていた。

12人もやられたのか。

魔獣を倒したという手応えもなく終わった。

完全な敗北だ。

そこからは口数も少なく、来た道を戻った。

人数がかけることなく出口まてこれたのは、不幸中の幸いだっただろう。

皆、無言で歩いた道を忘れはしないだろう。

ダンジョンを出たら日が高かった。

そんな早朝って訳でもない時間に入って出てきたら日が真上。

数時間しかいなかったようだ。

全員疲労困憊でダンジョン前で倒れるように膝をつく。

先輩騎士が駆け寄ってくるがなんと言ったものか。


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