母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第8章 17 扉をノックする人物は

　「困ります、お客様っ！」

フロントマンたちは強引に客室へ行こうとしているアグネスとアンドレアを引き止めるのに必死になっていた。何故このような事になっているかと言うと、黙って部屋へ行こうとしたフロントマン達に2人は見つかってしまったのである。

「いいから、通しなさいよ！この私を誰だと思っているの？！ちょっと、何処触っているのよ！」

アグネスは必死になって抵抗している。アンドレも行く手を阻まれていた。

「くそっ！通せよっ！」

アンドレアは警備員と睨み合っている。

「この私を誰だと思っているの？シュバルツ家の当主なのよ！ここ『リムネー』の領主なのよ！その私に向かってそんな態度を取っていいと思っているの？！」

「う…っ…」

「そ、それは…」

『リムネーの領主』…その言葉を聞けば、彼等は引き下がるしか無かった。何故なら彼等もまた『リムネー』の領民だったからだ。彼等は渋々引き下がると、アグネスはアンドレアを振り返り、言った。

「行くわよ、アンドレア！」

「ええ、おともしますよ」

ニヤリと笑ったアンドレア。その笑みはもはや以前の好青年だった頃のアンドレアの面影すら無かった―。

＊＊＊＊

　ここはリヒャルトたちが拠点としてるホテルのスイートルーム。

部屋の中にいるのはリヒャルト、ヴィクトール、グスタフの3人である。彼等は既にシュバルツ家から目的の物を持ち出し、客室へ戻っていたのだ。

ただし、リカルドはジャックからの報告を聞く為にまだシュバルツ家から戻ってはいなかった。

　リカルドはヴィクトールとグスタフを前に言った。

「よし。明日朝になったら早速顧問弁護士の元を尋ねることにしよう」

「ええ、そうですね」

リヒャルトの言葉にヴィクトールが頷く。

その時―。

コンコンコン

部屋にノックの音が響き渡った。

「あ、さっき頼んだルームサービスが届いたようですね。取りに行ってきます」

グスタフが立ち上がって扉をガチャりと開け、驚きの表情を浮かべた。

「あ…！な、何故ここに…？！」

部屋の中にいたリヒャルトとヴィクトールも扉の前に立っていたその人物を見て目を見開いた―。

＊＊＊＊

　アグネスとアンドレアはスイートルームの扉の前に立っていた。

「アンドレア、本当にここにリヒャリルトがいるのでしょうね？」

「ええ、間違いないですよ。この間この部屋に入った時、僕はテーブルの上にホテルの宿泊伝票が乗っているのを見たのですから。今月いっぱいは宿泊することになっていましたよ」

「そうね…このホテルはグレードも高いし、長期滞在するには向いているかもしれないわね。それにしてもリヒャルトめ…まさか戻ってきていたなんて…」

ギリギリと悔しそうに歯を食いしばった。アンドレアはそれには答えずに黙って扉を見つめながら心のなかで恐ろしい事を考えていた。

（今度こそリヒャルト様にもう一度スカーレットと婚約を結び直して貰うように頼むんだ…）

アグネスは扉をノックした。

コンコンコン

すると―

カチャリとドアノブの回る音が聞こえて部屋の扉が開かれた―。