第7章 17 父との別れ

 1時間後―


 スカーレットとアリオスはリヒャルト達を見送る為、屋敷の外に立っていた。

2人の警察官とリヒャルトは全員カツラや眼鏡、付け髭などで変装をしている。もはや誰が見ても別人の装いを彼らはしていた。さらに念には念を入れて…という事で、スカーレットはリヒャルトを駅まで見送ることを断念せざるを得ず、ここでお別れとなる。


「お父様…お元気で」


「ああ。スカーレット。お前もな…あの屋敷を取り戻した暁にはまた一緒に暮らそう」


リヒャルトはスカーレットの手をしっかり握りしめると言った。


「…はい」


スカーレットは返事をしたものの複雑な心境だった。


「…」


それを見守るアリオスの表情もどこか暗い。


「アリオス様。どうかスカーレットをよろしくお願い致します。必ず娘を迎えに参りますので…それまで娘の事を頼みます」


リヒャルトはアリオスに頭を下げた。


「はい…お任せください。チェスター家の方で大切に預からせて頂きます」


その言葉にスカーレットは一瞬、アリオスを見つめたがすぐにリヒャルトの方に視線を向けた。


「お父様、どうぞ道中お気を付け下さい」


「大丈夫だ。この方々も一緒だからな」


リヒャルトは背後に立つジャックとリカルド、それにレナートを見た。彼等もまた全員変装をしているので誰だか区別がつかなかった。


「リヒャルト様。ではそろそろ参りますか」


レナートは言った。背後にはタクシーが止っている。


「はい、分りました」


リヒャルトは頷くと、再度スカーレットに言った。


「元気でな」


「はい…」


スカーレットは涙を堪えて返事をする。


「…」


そんなスカーレットをリヒャルトは一度だけ強く抱きしめ、タクシーに乗り込んだ。その後3人の警察官達がスカーレット達に会釈をするとリヒャルトの後に続いた。

最後にリカルドがタクシーに乗り込み、ドアを閉じる時に言った。


「それでは失礼致します」


そして扉は閉じられ、エンジン音を拭かせながらタクシーは走り去って行った―。



(お父様…お元気で…)


涙ぐみながら走り去るタクシーの姿をじっと見つめるスカーレット。


(スカーレット…やはり父親と共に帰りたかったのだろうか…)


「スカーレット」


アリオスはためらいがちに声を掛けた。


「はい」


スカーレットはアリオスの方を振り向いた。


「…そろそろ中へ入ろう。今後の事を話さなければならないからな…」


アリオスの言葉にスカーレットの鼓動が早まった。


「分りました」


スカーレットは頷くとアリオスは笑みを浮かべると言った。


「では、屋敷に入ろう」


そしてスカーレットとアリオスは屋敷の中へ入って行った。




****


「は?今日は俺一人で仕事をしろって?」


執務室で仕事をしていたザヒムは持っていた書類をテーブルの上に置くとアリオスを見た。


「ああ。頼む。少し…スカーレットと話したいことがあるんだ」


深刻そうなアリオスの顔にザヒムがからかうように言った。


「ひょっとして別れ話か?」


「…」


しかしアリオスは答えない。今は質の悪い冗談に付き合えるような心境では無かった。


「おいおい…まさか、本当の事なのか?」


返事をしないアリオスにザヒムは今の言葉を肯定と受け取ったのだ。そしてアリオスの肩にポンと手を置くと言った。


「…まぁ、2人の事だから俺は口を出す権利など無いが…喧嘩したなら早目に仲直りした方がいいぞ?彼女の好きなプレゼントでも渡して、とにかくひたすら謝り倒せ。

な?」


「…お前、一体何を言ってるんだ…?」


そんなザヒムにアリオスは首を傾げた―。

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