第6章 12 ヴィクトールとの再会

 翌朝11時―


 スカーレットとアリオス、そしてブリジットの3人は『ミュゼ』の駅前にあるホテルのロビーへやってきた。


「お父様はどこかしら…」


スカーレットはキョロキョロとロビー内を見渡していた。ロビーは人が溢れかえっており、探すのは中々困難であった。


「これだけ人がいると探すのは難しいですね…」


ブリジットはため息をつく。


「…」


一方、相手の事が全く分からないアリオスはどうすることも出来ず、スカーレットとブリジットに頼るしか無かった。


(写真でもあれば良かったのだがな…)


その時―


「スカーレット様っ!」


スカーレットを呼ぶ大きな声が前方から聞こえてきた。


「あ…ヴィクトールッ!」


人混みに紛れて頭1つ分大きな身長が見え隠れしていた。


「ヴィクトール様だわっ!」


ブリジットも歓喜の声を上げた。アリオスは2人の視線の先を見ると、大柄な男性がこちらへ急ぎ足で向かってくるのが見えた。


(彼が…シュバルツ家の筆頭執事のヴィクトール・ヘイズ…?)


「ヴィクトール元気だった?」


スカーレットは笑顔でヴィクトールに話しかけている。


「スカーレット様、ブリジット様、お久しぶりでございます」


浅黒い肌に前髪を上げた人物は執事とは思えぬような体躯の持ち主だった。Yシャツ姿にボトムス姿のヴィクトールはそのシャツの上からも筋肉質な身体であることが分かった。そしてヴィクトールは傍らに立つアリオスに気づくと尋ねてきた。


「もしや…貴方がチェスター家の当主であらせられるアリオス・チェスター様でいらっしゃいますか?」


「はい、そうです。アリオス・チェスターです。初めまして」


「お初にお目にかかります。私はシュバルツ家の筆頭執事のヴィクトール・ヘイズと申します。この度はスカーレット様とブリジット様を受け入れて頂き、誠にありがとうございます」


そして深々と頭を下げてきた。


「いえ、こちらこそスカーレットには弟の家庭教師をして頂き、とても感謝しております」


2人の挨拶が一通り済むと、早速スカーレットはヴィクトールに尋ねてきた。


「ヴィクトール、お父様は何処にいるの?」


「はい、実は人混みにお連れするわけにはいかず、我々が手配したこのホテルの部屋にグスタフとおります。早速参りましょう」


「ええ」


スカーレットが頷くと、ヴィクトールはアリオスとブリジットにも声を掛けた。


「侯爵様とブリジット様もいらして下さい」


「はい」


ブリジットはうなずいた。


「え?私もいいのですか?」


アリオスは尋ねた。


「ええ、もちろんです。ではこちらになります」


そして3人はヴィクトールの後に続き、リヒャルトのいる部屋へと向かった―。




****


 ヴィクトールが手配した部屋は2階にある特別室だった。ヴィクトールは部屋の前に立つと扉をノックした。するとすぐに扉は開かれ、中からはグスタフが顔をのぞかせた。


「グスタフッ!」


スカーレットはすぐにグスタフの名を呼んだ。


「スカーレット様…お久しぶりです。それにブリジット様も…」


グスタフは2人の顔を交互に見た。


「グスタフ様、ご苦労様でした」


ブリジットはグスタフに頭を下げた。


「ブリジット様…」


その時ヴィクトールがグスタフに声を掛けた。


「グスタフ、こちらの方がアリオス・チェスター侯爵様だ」


「貴方が…!申し遅れました。私はグスタフ・ロペスと申します。シュバルツ家の執事を努めております。始めまして、どうぞよろしくお願い致します」


「初めまして、アリオス・チェスターです」


2人が挨拶を交わすと、ヴィクトールはスカーレットを見た。


「スカーレット様、リヒャルト様が中にいらっしゃいます。どうぞお入り下さい」


「え、ええ…」


スカーレットは緊張する面持ちで頷いた―。



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