第5章 9 アリオスの考え
ベンとの話も終わり、スカーレット達はボートに乗っている時にカールに説明した『ふれあい動物広場』に来ていた。
「うわぁ…なんて可愛いんだろう・・」
カールは頬を染めて膝に乗せたうさぎをそっと撫でている。身体の弱いカールは屋敷に引きこもりがちで、動物と触れ合ったことも殆ど無かったのだ。
「カール様。うさぎさんに餌を上げることも出来るんですよ?」
スカーレットはスティック状にカットした人参をカールに手渡した。
「僕が餌をあげてもいいんですか?」
顔を上げてスカーレットを見た。
「ええ、勿論です」
「そ、それじゃ…」
カールはスカーレットから受け取った人参スティックをそっとうさぎの口に持っていくと、うさぎ小さな口を開けてモグモグと食べ始めた。その愛らしい姿にカールはすっかり釘付けになってしまった。
「か、可愛い…」
白い頬を薔薇色に染めてじっとその様子を見ていると、アリオスはカールをここに連れてきて本当に良かったと実感した。
「スカーレット」
アリオスは隣に立つスカーレットに声を掛けた。
「はい、何でしょうか?」
「ありがとう、ここに連れてきてくれて」
「アリオス様…」
「カールがあんなに子供らしく楽しげな姿を見るのは…情けないことに初めてなんだ。本当に君には感謝している」
じっとスカーレットの目を見つめてくるアリオスに急に恥ずかしくなったスカーレットは目をそらすと返事をした。
「そ、そんな…大袈裟です。アリオス様。むしろ感謝しているのは私の方です。ずっとシュバルツ家の様子が気になっていたので。ここに連れてきて頂いてありがとうございます」
最後にスカーレットは顔を上げて、アリオスを見ると笑みを浮かべた。
「…っ!」
不意にアリオスはスカーレットの笑顔を眩しく感じ、それを誤魔化すためにカールに声を掛けた。
「カール。餌やりも済んだことだし、そろそろホテルへ戻ろうか?ブリジットも待っているだろうし、あまり出歩いてお前が疲れてもいけないしな」
「はい、分かりました」
カールはうさぎを抱いたまま、そっと立ち上がると係員の男性にうさぎを手渡した。この男性もベンと同様、シュバルツ家の使用人である。
「はい、お預かり致します」
係員はうさぎを預かると、スカーレットに声を掛けた。
「スカーレット様、こちらにいらして頂けて嬉しかったです。てっきり我々は見捨てられてしまったのではないかと、ずっと不安に思っていたので…」
「あ…」
(そうよね…何の連絡も届かぬうちにシュバルツ家であんな事が起こって使用人の人達が一斉にやめてしまい、公園で働く人達は全く知らなかったのだから…)
挙げ句にリヒャルト亡き今、本来であればシュバルツ家を継ぐのはスカーレットであるはずが義母がまるで当主のように振る舞い、義妹に婚約者を奪われ、半ば追い出される形であの屋敷を出てしまったのだ。この施設で働く彼らにまで気を配る余裕が無かったのだ。
「ごめんなさい…本当に」
スカーレットは頭を下げると、男性は慌てたように言った。
「い、いえ!そんな頭を上げて下さい。私はスカーレット様を決して責めるつもりで言ったわけではありません。ただ申し上げたかったのは、我々の様子を見に来てくださったのが嬉しかった事なのです」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると…嬉しいです」
「…」
アリオスはそんな2人の会話を黙って聞きながら思った。
(やはり、このままシュバルツ家に入り込んだという母娘を野放しにしておく訳にはいかないな…)
アリオスにはある考えが浮かんでいた―。
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