母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第5章 8 今の現状

「アリオス様。ボートを漕ぐの上手ですね」

スカーレットは声を掛けた。

「ああ、そうか？」

「前もどこかで漕いだ事があるんですか？」

カールが尋ねた。

「あ、ああ…そうだな」

アリオスは歯切れが悪そうに答えた。

「？」

そんなアリオスをカールは不思議そうに見つめるが、スカーレットには分かってしまった。

（きっと以前一緒漕いだことがあるのは…ヴァイオレット様を乗せたときなのね）

そこでスカーレットは言った。

「カール様、見て下さい。あの草原にはふれあい動物広場があって、うさぎやモルモットを触れたり、餌やりを出来る場所があるのですよ？」

「え？そうなのですか？」

「ええ、行ってみたいですか？」

「はい、行ってみたいです！」

スカーレットはアリオスを見た。

「カール様をお連れしてもよろしいですか？」

「あ、ああ。俺の方は構わない」

「ありがとうございます」

スカーレットは頭を下げた。そしてその後も3人は他愛もない話をし、ボートで湖を1周すると、再び桟橋へと戻っていった。

「お疲れ様でした。いかがでしたか？」

桟橋に着くと、ベンが迎えに出ていた。

「久しぶりにボートに乗れて良かったです」

スカーレットが言うと、カールが目を輝かせた。

「僕、生まれて初めてボートに乗ったんです。とても楽しかったです」

「ありがとう、とても良かったよ。これからもこの場所を維持していって貰うことを祈っている」

アリオスの言葉にベンは頭を下げた。

「ありがとうございます。それでお話したいことなのですが…あの、ここのオープンデッキでお話しませんか？」

オープンデッキには大きな木製のガーデンテーブルセットが置かれている。テーブルはとても大きく、椅子はベンチ式になっており、3人は余裕で座れそうな大きさだ。

「そうだな。木陰もあってすがすがしい場所だ」

アリオスは満足げに言う。アリオスとスカーレットは隣同士に座り、ベンが向かい側の席に座った。そしてカールはログハウスの裏手に作られたブランコに乗って遊んでいる。

「ベンさん。今シュバルツ家はどうなっているのでしょう？」

スカーレットは神妙な面持ちで尋ねた。

「ええ…それが我々にもあまり良く分からないのです。何しろ屋敷で働いていた人達は全員入れ替わってしまって、知っている人物が1人もいないのです」

「そうなのですか…やはり…。それではお義母様達の事は知らないですよね？」

「一度、我らにお給金の支払いをお願いする旨を伝えに屋敷に伺ったことがあるのですが…お前たちは誰だと。使用人かどうかも分からない人間に給金は支払えないと言われました」

「そ、そんな…！」

スカーレットは口を押さえた。

「そこで私達はアーベル様に手紙を書いて送ったのです。アーベル様の連絡先は伺っておりましたので。すると弁護士の先生からお手紙を頂いたのです。そこでお給金の件は解決出来ました」

「そうか、それは良かった」

アリオスは頷いた。

「それで…屋敷の方はどんな様子でしたか？」

スカーレットは尋ねた。

「酷い有様でした。シュバルツ家が保有していた絵画や骨董美術品は何もかも消え失せておりました。それなのに新しいシュバルツ家の主となった女性は贅沢なドレスや宝石を身につけていました。使用人たちも…どこか冷たい感じでした」

「そうですか…」

（本当に今のシュバルツ家は私がいた頃とはまるきり変わってしまったのね…）

スカーレットは悲しげに目を伏せた―。