第5章 1 旅行当日
今日はスカーレットの故郷『リムネー』へスカーレット、ブリジット、カール、そしてアリオスの4人で旅行へ行く日だった。
「お天気に恵まれて良かったですね」
午前9時―
既に準備を終えてスカーレットの部屋でアリオス達の迎えを待っていたブリジットが話しかけてきた。
「ええ、そうね」
スカーレットは窓のそばに椅子を寄せて外を眺めながら返事をした。スカーレットは2日前に王宮から戻って来た日の事を思い出していたのだ。あの日、アリオスと会話後にカールの様子を見てきてくれと頼まれたので部屋へ行くと吸入のお陰で落ち着いたのか、既に眠りについていた。
そこでアリオスに報告へ行くと、既に執務室にはアリオスの姿は無かった―。
それから今日までアリオスとスカーレットは顔を合わせることが出来なかった。
旅行についての話はすべてセオドアからの連絡によるものだった。
(アリオス様…一体あの後、どうされたのかしら。旅行に行くまでの間…一度も姿を見せなかったけど…)
スカーレットは何も知らなかった。アリオスが自分と話をした後に王宮へ行き、アイザックとヴァイオレットに話を付けてきたことを。
「それにしてもアリオス様は今日まで一度もお会いになる事はありませんでしたね」
不意にブリジットがまるでスカーレットの心を見透かしたかのように声を掛けてきた。
「え、ええ。そうね…。アリオス様はお仕事がお忙しい方だから…」
コンコン
その時、ノックの音が聞こえた。
「2人とも、準備は出来ているか?」
それはアリオスの声だった。
「アリオス様の声だわ」
ブリジットが言う。
「私が出るわ」
スカーレットは椅子から立ち上がると、ドアをカチャリと開けると目の前には背の高いアリオスが立っていた。
「おはようございます。アリオス様」
スカーレットは笑みを浮かべて挨拶をした。
「ああ、おはよう。スカーレット、迎えに来た。」
アリオスも口元に笑みを浮かべると言った。その時、スカーレットはカールがいないことに気がついた。
「アリオス様、カール様はどうされたのですか?」
「ああ、カールならもう一足先に馬車に乗り込んでいる。俺達の荷物も積んであるのだ。だから荷物を運ぶのを手伝おう」
「え?それは申し訳ないので自分で持ちます。」
スカーレットは慌てて手を振り、荷物を取りに行こうとするとアリオスに引き止められた。
「スカーレット」
「はい?」
「君はか弱い女性なんだ。俺がここにいるのだから、もっと頼ってくれ。仮にも俺は…婚約者なのだから」
「え?」
スカーレットはその言葉に思わず顔を上げてアリオスを見た。アリオスの顔はいつになく真剣だった。
(一体どうされてしまったのかしら?アリオス様…何だか様子がおかしいわ)
スカーレットは何も知らなかった。アリオスがここまでスカーレットの身を思うようになったのは、アイザックに不埒な真似をされそうになったのが全ての原因であることを。そして旅行に行くまでの2日間…アリオスが姿を現さなかったのも、アイザックからスカーレットを守ってやれなかった事への罪悪感によるものだった。
「「…」」
少しの間、2人は無言で見つめ合っているの見かねたブリジットが声を掛けてきた。
「おはようございます、アリオス様」
「あ、ああ。おはよう」
アリオスは慌てたように返事をすると言った。
「よし、では荷物を持って馬車の元へ向かおう」
そしてアリオスはスカーレットとブリジット、2人分のトランクケースを持つと言った。
****
スカーレットたちは使用人たちに見送られ、エントランスに立っていた。
「セオドア、俺がいない間留守を頼む」
「かしこまりました。アリオス様」
「皆さん。それでは行って参ります」
スカーレットは頭を下げた。
『行ってらっしゃいませ』
その場にいた使用人たちが一斉に声を揃えて挨拶をする。
「よし、では行こう」
セオドアが扉を開け、スカーレット達は屋敷の外へ出るとそこには既に馬車が用意されていた。馬車の中からはカールが笑顔で手を振っている。
「カール様」
控えていた御者が扉を開いた。
「乗ろう、スカーレット」
アリオスが手を差し伸べる。
「はい。」
スカーレットはアリオスの手を取って馬車に乗り込み…やがて全員を乗せた馬車が走り出した―。
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